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KYOCERA VENTURE DAY ~食のオープンイノベーション~開催!

 2023年5月31日、京セラ株式会社・研究開発本部は、京セラみなとみらいリサーチセンターにおいて、『KYOCERA VENTURE DAY ~食のオープンイノベーション~』を開催しました。本イベントはオープンイノベーションの一環として、フードテックのスタートアップ企業4社と社内スタートアップ1プロジェクトのピッチ、および試食品の提供も含んだネットワーキングの2部構成で行われました。
 参加されたのは、食品製造業大手・その他製造業・観光業・建設業・製薬業、また大学や官公庁といった、合計100名にもおよぶ様々な方たちです。登壇した5社は、それぞれが考える現代社会の課題や、それに対する独自のアプローチ方法を発表しました。フードテックビジネスの重要さや発展性に期待を持てる会となった本イベントの様子をお届けします。

まずは、本イベントで登壇した5社を紹介します。

上記の順で、各企業の代表が事業内容、ビジョンとミッション、それに対するアプローチ法などを説明しました。

株式会社Agnavi

 株式会社Agnaviはアグリ・フードテック系のスタートアップ企業で、SDGsも絡めた食にまつわる課題解決を目指しています。現在は、「ICHI-GO-CAN®」と「CAMPAI®」の2ブランドを展開し、日本酒を世界に通じるブランドへ成長させることに注力しています。

 「この50年間で、日本酒の消費量は77%減少し、廃業する蔵元も増えつつあります。また、日本酒の生産量低下は酒米にも影響しており、農家にとっても深刻です。しかし、同じお酒であるワインに目を向けると、約1.2兆円という輸出量を誇ります。それに対して、日本酒は約500億円規模です。この2つの違いは品質管理のしやすさにあると推測し、容器を瓶から缶に変えました」(代表取締役 玄 成秀さん)

 約50年前、ビール業界が缶を導入したことで、1兆円から3.5兆円まで市場を広げた例もあり、「缶に変えることで物流のしやすさ、CO2排出量の削減、リサイクルのしやすさも目指せる」と考え、クラウドファンディングやフードテックビジネスコンテストなどに参加して理解者を募りました。その結果、漫画をはじめとするコラボ缶を次々に発表し、その数は100種類以上にも上ります。
 今後は『ICHI-GO-CAN®』とフードとのクロスセリングで、国内の利用者の拡大を、また、セカンドブランド『CAMPAI®』の海外輸出で、日本酒の知名度アップとファン獲得を狙っています。日本酒作りに使用する酒米の消費量の減少を食い止め、蔵元を中心とした地方創生にも寄与したいと考えています。

株式会社Sydecas

 株式会社Sydecasは元々、医療・介護現場向けの医療品や雑貨を製造していましたが、食の制限を悲しむ患者を見て「病状に関係なく、食を楽しんでほしい」という想いから立ち上げられました。
 従来の食品の成型には、水飴などの糖類か小麦粉などの炭水化物、もしくはバターのような脂肪分、または食品添加物を使っていました。しかし、それらの多用は決して健康的とはいえませんし、生活習慣病をはじめとする病にかかっている人には不向きです。また、代替肉や次世代タンパク質などのフードビジネス革命が続いていることも背景にありました。

 「食の役割は栄養摂取だけに限りません。味、香りはもちろん、形や食感にも食べる楽しみがあるはずです。日本の食文化でも重要なそれらを無視すべきではないと考え、こんにゃくに注目しました。こんにゃくはとてもヘルシーであると同時に、接着材としての機能性にも優れているんです」(代表 寄玉 昌宏さん)
 同社で開発した「NinjaPaste」は、こんにゃくをペースト状に加工したもの。ゼラチンと違い、冷凍・加熱・乾燥によって固まる性質を持ちます。また、保水量・温度・湿度のかけ方によっても変わります。

 「3年半の研究によって、NinjaPasteを使った様々なテクスチャーを生み出してきました。ノウハウやナレッジも蓄積しているので、現在はオルタナティブフードの開発プラットフォーム作りにも着手しています」(同)
 プラットフォームを作った後に目指すのは、次世代和食材作りです。温度や湿度を変えたり組み合わせたりすることによる、新しい食体験の提供が目標です。プラントベース素材の代替サーモンや水ナス、絶滅危惧種の代替食材なども視野に入っています。
 「資源を保護しながら、今まで食べたことないものが食べられるというエンターテンイメント性を両立させた取り組みです。この技術を通して、新しい食文化作りの一助になりたいと思っています」(同)

株式会社StockBase

 株式会社StockBaseは、代表取締役と取締役の2人が横浜市立大学在学中に学生起業として立ち上げました。「モノと思いを循環させ、豊かさを分かち合う社会へ」をミッションに、循環型社会実現の一手として、各企業が保有している期限切れ間近の備蓄食材を、必要としている福祉法人や子ども食堂などに供給するマッチング事業を行っています。

 「現在、災害備蓄食品はそのほとんどが使われず、入れ替え時期になると社内配布・廃棄・寄付されることとなります。日本全体の余剰在庫の食品ロスは9,000億円にも上るとされています。どれも手間がかかることが課題です。そこで我々は、廃棄費用と同等の費用をマッチング費用として企業より回収し、受取先となる応募企業や団体から最適な受取先とマッチングさせるプラットフォームを作りました。サービス開始からのマッチング率は100%。備蓄食品市場の成長、防災意識の向上に伴って年々拡大しています」(代表 関 芳実さん)

 もうひとつの課題は、今後訪れるであろう、需要の限界です。それを見据えて、備蓄食品全体の約40%(年間30万トン)を占めるアルファ米のアップサイクル(廃棄物に新たな付加価値を持たせ、新しい製品に生まれ変わらせること)に着手しました。
 「プロダクト自体はまだありませんが、備蓄の役目を終えたアルファ米をアルファ化米粉として、第2のサプライチェーンに活用することを計画しています。現在は、大手の製粉会社、メーカー、パン屋さんと協議をしながら進めています」(同)
 小麦粉の一部をアルファ化米粉と代替した実験では、通常よりも食感がモッチリとして、より美味しくなることもわかりました。備蓄食材としての保存期間が5年と品質上の問題はありますが、協力企業と協議しながら新たなサプライチェーンを構築し、備蓄食品ロスの問題解決の一助を目指しています。

matoil

 matoilは、京セラの社内スタートアップ発のプロジェクトです。社外の専門家と協力しながら、食物アレルギーがある子どものいる家族に、オーダーメイドで料理を提供しています。

 「我々はアレルギーがあることで『食べられないこと』ではなく、食べられないことで生じる『疎外感』が課題だと考えています。友達の誕生日会に自分の子どもだけ呼ばれない、お祭りの屋台で食べられるものがないなど、本人やその家族を悩ませる状況を打開するサービス提供に励んでいます」(プロジェクト責任者 谷 美那子さん)
 現在展開しているのは、アレルギーだけでなく、好き嫌いも含めた要望に基づいたフルオーダー料理に、原材料変更によりアレルギー対応をするカスタムオーダー料理、卵・乳・小麦不使用で作った商品の販売、の3つです。

 「アレルギーは人によって種類も数も症状も異なります。そのため、まずは丁寧にヒアリングをするのですが、本人が『食べたいもの』『食べてみたいもの』を聞くよう心がけています。今まで作ったことがないものもリクエストされることもありますが、そのおかげで、卵に小麦、もしくはナッツ類もすべて不使用のクロワッサンなど、今までなかった新しい食品が次々に誕生してきました」(同)
 

 現在、問い合わせが多いのは、修学旅行先などでも食べられる湯せんやレンジで温められるもの。アレルギーの心配がない、新たな食にチャレンジする機会の創出だけでなく、食事を理由とした行動制限の打開策にも乗り出してます。
 また、最近ではオンラインショップでの販売もスタートしました。アレルギーで悩む多くの方へ届けられるように、さらに活動の幅を広げたいと考えています。

リージョナルフィッシュ株式会社

 この30年で、世界の漁業生産量は倍増しているのに対して、日本は3分の1まで下がり、漁業生産量世界1位から8位に転落しました。そこには、水産物の品種改良が進んでいないことも起因していると考え、同社はゲノム編集技術を駆使して、約10分の1のスパンでの品種改良を可能にしました。
 これまでのゲノム編集では、突然変異で生まれた優良形質を持った個体を掛けあわせて量産してきました。しかし突然変異は、偶然の産物ともいえるものです。それを誘発するための放射線照射や薬品投与などに、多大な時間と労力がかかっているのが実状です。

 「我々のゲノム編集技術は、狙った遺伝子をピンポイントで切って、その機能を失わせる手法です。トラフグのゲノム編集では、食欲を抑える遺伝子を削除することに成功しました。その結果、2年で通常よりも1.9倍の大きさにまで成長させ、4年で量産が可能になりました」(代表 梅川 忠典さん)
 現在は、飼料コストの低い養殖方法で、可食部が多い個体を生産するほか、今までになかった特徴を持つ個体の生産も目指しています。

 「アレルゲンのないエビやカニ、プリン体のないウニやイクラの生産や、鯖やサーモンなどは、油の量の調節も可能です。身が3倍に成長したアワビやタコ、あとは無毒のフグというのも面白いですね。将来的には、豊富な選択肢を持つ魚屋を誕生させて、日本の水産業の助力となりたいです」(同)
 各社のピッチの後には、参加者からの質疑応答時間も設けられました。次々と質問が飛ぶ、和やかな雰囲気のままピッチを終えました。

食のイノベーションを実感する試食会&ネットワーキング

 5社のピッチ後は、登壇企業から提供いただいた試食品を味わいながら、ネットワーキングを楽しみました。
 提供いただいたのは、備蓄食のアルファ米を使用したカレーパン、22世紀鯛の昆布締め、米粉ピザ、一合サイズの日本酒、NinjaFoodsサステナブルベジジャーキーなどの約10品です。「美味しい!」などの感想を交わしながら交流しました。
 また、一人当たりの名刺交換の時間も長くとれ、「濃密なネットワーキングだった」という声も聞かれました。

今後も京セラは連携を進める

 京セラ・オープンイノベーション推進部では、1社では解決できない⼤きな社会課題の解決や新たな価値創造に向け、スタートアップ・大企業を問わず様々な連携の強化を進めています。今後も、みなとみらいをはじめとした3つの国内研究拠点にて、社内外の多くの人が出会い、活発に交流し、触発や協力する機会を提供する数多くのイベントを実施していきます。興味のある方はぜひ参加ください。