今、神奈川がアツい!大企業とベンチャー企業による共創プロジェクト~KANAGAWA INNOVATION DAYS Meetup Fes 2024~
2024年2月21~22日、「KANAGAWA INNOVATION DAYS Meetup Fes 2024 DAY1&2」が京セラのみなとみらいリサーチセンターで開催されました。約300人の視聴者が見守る中、「神奈川からイノベーションを発信し繋がる2日間」というコンセプトの下、県のベンチャー支援事業「かながわ・スタートアップ・アクセラレーションプログラム(KSAP)」および「ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK)」の2023年度の活動成果を発表しました。
KSAP(かながわ・スタートアップ・アクセラレーションプログラム)
神奈川県では、世の中の困りごと・解決しづらい社会の課題を、ビジネスを通じて解決するベンチャー企業を公募・採択し、メンタリングやネットワークによる支援などを通じて社会価値の実現とベンチャー企業の事業拡大を支援するプログラム「KSAP」を運営しています。令和2年度からの4年間で毎年10社ずつ、計40社を採択し、事業拡大や資金調達をサポートするため、専任のメンターによる個別ハンズオン支援や資金支援等を行っています。
BAK(ビジネスアクセラレーターかながわ)
神奈川県では、県内に拠点を持つ大企業と質の高いベンチャー企業による事業連携プロジェクトの創出と、オープンイノベーションに向けたコミュニティ形成を目的として、大企業・ベンチャー企業・研究機関・支援機関等に参画いただく協議会「BAK」を運営しています(参加企業633社、2024年1月時点)。BAKでは、企業が抱える課題や実現したいテーマに基づき、大企業等とベンチャー企業のマッチングを行い、事業化に向けた支援を行っています。
2日間にわたって行われた本イベントは、1日目は脱炭素・サスティナブル部門のKSAP採択企業による5社と、BAK採択企業による8プロジェクトを発表し、2日目はデジタル・DX・ヘルスケア部門のKSAP採択企業による5社と、BAK採択企業による7プロジェクトの発表と、特別セッションを行いました。本記事では、全25の発表の中から5つの発表を紹介します。
「アクアポニックス」×気流制御が生み出す持続可能な農業
株式会社アクポニ・富士工業株式会社の共同プロジェクト
登壇者:富士工業株式会社 丸川雄一氏、株式会社アクポニ 怒和亜里寿氏、濱田健吾氏
日本の農業が抱える課題の中で、特に問題視されているのがエネルギー価格です。株式会社アクポニでは、その解決策のひとつとして、エネルギーや資源を循環させて利用効率を上げる方法の循環型施設園芸「アクアポニックス」を開発しました。
濱田「アクアポニックスとは、魚と野菜を同時に生産する循環型の生産システムで、微生物を使って魚の糞を肥料へと変え、それを利用して野菜を育てるという仕組みです。また、飼育水はろ過で浄化し、植物の水耕栽培装置につなぎ、再び水槽へ戻ります。そのため、水・電気・肥料の利用効率を高め、生産性と環境保全性の両立が可能となります。」
2030年までに日本で定着させることを目標に、2027年までに全国にアクアポニックス農園を200ヵ所まで伸ばし、各都道府県に最低2つ作ることを目指しています。富士工業株式会社の気流制限技術を掛け合わせた実証実験では、資源循環の効率や収穫量を高めつつ、エネルギーコストの減少を叶えられることが確認できました。そこから、肥料の節約効果、それによる環境負荷の低減、脱炭素化といった効果も期待できます。
電気自動車(EV)による災害時の給電救援サービス「Power Ranger」の開発
BellaDati合同会社・日産自動車株式会社の共同プロジェクト
登壇者:BellaDati合同会社 桐生孝憲氏、日産自動車ビジネスパートナーシップ推進部 サイファー豪志氏
本プロジェクトの目的は、日産自動車株式会社のEV(電気自動車)とBellaDati合同会社のデータ可視化技術を掛け合わせて、災害の停電時に迅速にEV電力を届けること。きっかけは、災害時の支援活動での苦い思い出です。
サイファー「長期にわたる停電は現地の人々の生活面だけでなく、時に生命にも影響を及ぼします。日産では、過去の災害時に数台のEVを派遣しましたが、EVの所在地といった状況把握と手配で多くの労力と時間を要しました。」
これを改善するためにBellaDatiに協力を仰ぎ、本プロジェクトが始動しました。
桐生「BellaDati合同会社は、あらゆるデータを収集・分析・見える化するまでを超短納期で提供しているソフトウェア会社です。今回は、自動車事故の検知ソリューションを活用した、あらゆるデータを収集・分析・可視化することが可能なフレームワークと日産自動車様の分析APIデータ連携技術を組み合わせることで、リアルタイムでEV車両の電池残量、所在地の可視化を実現させました。」
操作は簡単で、あらかじめEV所有者がEVの情報を登録しておき、災害時に災害対策本部等が登録者に一斉応援要請を出し、救援可能な車両の現在地と電池残量を把握します。その情報は地図上にわかりやすく表示され、可視化された情報をもとに災害対策本部はすかさず適任のEVを判断し派遣を依頼。そして救援が必要な避難所へEVを素早く派遣するという流れです。実際に会場で行ったデモンストレーションでも、救援可能な車両の現在地と電池残量と充電ポイントの場所を見つつ、スムーズにEVへ派遣指示ができました。
サイファー「今後は実証実験の結果を元にブラッシュアップして、サービス開始を目指していきます。そして、将来的には祭りやレジャーといった平常時でのEV活用シーンを広げることができれば、EVの電力利用が便利になるだけでなく、さらなる災害時の備えにも繋がると信じています。」
従業員一人ひとりに向けた「コンディション可視化」と「働きやすさを知る面談」により、働き続けたい介護業界を実現
株式会社ニチイケアパレス、株式会社きゃりこん.comの共同プロジェクト
登壇者:株式会社ニチイケアパレス 鈴木宏直氏、きゃりこん.com代表取締役 下平光明氏
人材確保が難しい介護業界。驚くことに、全産業の中で精神疾患者率が1位といわれています。日本で義務付けられているのは産業医面談のみで、日頃の従業員ケアは各法人の企業努力に委ねられています。しかし、介護現場では人命が最優先です。日頃の従業員ケアは手つかずのままで、慢性的に定着率の低い状態が続いています。
下平「この問題を解決するために、本プロジェクトでは、介護現場スタッフの働きやすさ向上の実現を目指し、定着率を上げて、スタッフに投資できる現場の土台作りを行っています。具体的には、定期的にオンライン面談を実施し、スタッフが自らを客観的に見直す機会を提供し、経営層には組織単位での可視化したコンディション情報をフィードバックします。」
共同事業者である株式会社ニチイケアパレスの鈴木さんからは、介護現場のスタッフ・ホーム長としての勤務経験を持ち、スタッフの労務管理や安全衛生の管理、精神的なサポートにまで手が回らない実情と、その打開策としてきゃりこん.comを導入した経緯を話しました。
下平「神奈川県内での検証では、面談導入前と比べて大きく離職者が減少し、数千万円の採用コスト削減にも貢献できました。中には、面談に対するネガティブな印象から拒否する方もいらっしゃいましたが、多くのホーム長からご賛同いただき、現時点での面談実施率は95%を超えています。さらに、面談を受けた方々からも、『自身を客観視できた』といった声をいただきました。」
この経験から、きゃりこん.comは「介護医療現場の感情と矜持を拾い上げるオンライン面談プラットフォーム」と再定義。「介護現場にあったらいいな」から「介護業界になくてはならない」存在になれるよう、連携を続けていきます。
腎臓病の方に向けたアプリ及び宅配食による食事療法の実践サポート事業
株式会社トーチス・ウェルネスダイニング株式会社の共創プロジェクト
登壇者:ウェルネスダイニング 佐々木俊文氏、清水結以氏、トーチス 松岡大輔氏
日本人の死因トップ10に入っている腎臓病は、実に1,300万人にも上ると言われています。重症化した場合に行う人工透析は長い時間を要するため、国の医療費をも圧迫し、治療の柱となる食事療法にも時間と労力がかかります。
トーチスの松岡さんは、自身の家族が腎臓病治療を受けていた経験から、ウェルネスダイニング株式会社との共創で、腎臓病患者に向けたアプリ開発及び宅配食による食事療法の実践サポート事業に乗り出しました。
松岡「ウェルネスダイニング様の宅配食を食べてほしい、また食事を用意される方の苦労を軽減できるようサポートしたいという想いと、弊社の食事療法を楽に実践してほしい、多くの方にアプリを使って楽に食事管理をしてほしいという願いが合わさり、世界初となる、疾患からマッチした宅配食を購入できるアプリを開発しました。」
アプリには宅配食の注文のほかに、疾患にかかる方たちの宅配食の食べ方についてのインタビュー動画、宅配食の美味しさを伝える機能などが付いています。
松岡「さらに、トーチスが持つ栄養計算アプリ等と連携して、様々なデータを取得。実際に宅配食を食べている方が摂取している栄養価、どんな料理を食べているのか、その後の検査結果といったデータを分析し、今後のメニュー開発に役立てていく方針です。」
また、医療機関での実証実験、一般企業への健康相談といったサービス提供に向けて歩みを続け、世界中の疾患に由来する食事の悩みの解決を目指していきます。
腸内細菌の個別最適化による健康寿命の延伸と一人ひとりの豊かさの創出
株式会社bacterico・株式会社小田急百貨店の共創プロジェクト
登壇者:小田急百貨店 久保田菜海氏、株式会社バクテリコ 上ひかり氏
最後のプロジェクトは、健康寿命の延伸を目指す株式会社バクテリコの発表です。腸内細菌検査のリソースと株式会社小田急百貨店の豊富なサービス提案を掛け合わせた、エビデンスに基づいた個別最適化した提案型の健康サポートサービスを開発しました。
上「近年の研究で、腸内細菌は人それぞれに違い、双子であっても腸内細菌が違うために、健康や美容への影響・効果が異なることが分かりました。そこで、検査だけでなくその後の管理栄養士による栄養指導まで提供している弊社の強みと、地域のお客様と密に繋がり、良い商品の提案にも力を入れていらっしゃる小田急百貨店様の強みを合わせた共創事業になります。」
企業間を超えて次々に生まれる共創プロジェクト
2日間のイベント終了後、京セラの大崎より、京セラみなとみらいリサーチセンターの紹介と挨拶が行われ、すべてのプログラムが終了しました。新たな発見をもたらすプロジェクトが多く発表された本イベント。脱炭素、サスティナブルなどの異なる分野における革新的なアイデアとソリューションが披露され、これらに関連した社会課題への高い関心と解決への期待が感じられる、熱い2日間となりました。両日の発表終了後にはネットワーキングも行われました。登壇者も参加者も和気あいあいと自由に質問や意見交換をされていて、未来の共創に向けた協力関係の構築のかけらが生まれる気配もありました。
本年度は昨年度のように採択・共創の発表ができませんでしたが、京セラ・オープンイノベーション推進部では、本年度のイベントで得られた学びとフィードバックを活かし、今後も同様のイベントに参加・協力して、さらに価値ある共創体験を皆様と共有できるよう努めてまいります。