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お店とお客様との距離を縮めたい!顧客行動データ取得システムの開発現場を突撃しました。

「この服、買いますか?買いませんか?…」・・・「買いま…キープ!」

 皆さん、お店で洋服を買うとき、どうしています?
 すぐに「これだ!」と決められますか?それともハンガーラックの前で「うーん」って唸って、鏡の前で「これならいけるかも!?」となり、最後に試着室で合わせてみても「本当にこれ自分に似合っているのか?」となって、別のお店で別の服を見た時に「あれ?前の服の方が似合っていたんじゃ?」「そもそも前の服ってどんなだっけ?」となったりしませんか。色々なお店を見て「やっぱりあの服がよかった」などと悩みながら決めていく人の方が多いのではないかと思います。
 せっかく買いたい服が決まっても「またあのお店まで行かなきゃ!」とお店に戻ってみると、既に売り切れていた!なんてことも。これは、売る側と買う側のどちらにとっても大きな課題ですよね。店舗販売や通信販売など売り方も買い方も幅広く選べる今、この課題を解決するため、京セラ研究開発本部では「顧客行動データ取得システム」の開発を進めています。
 京セラが、アパレル業界との異色のコラボで目指すこのテーマ、テッちゃんがこのテーマを進めている厚見さん・出川さんに突撃!インタビューを敢行しました。
(聞き手:大崎 哲広)
(場所:ナノ・ユニバース ラゾーナ川崎プラザ店)

<プロフィール>
京セラ株式会社 研究開発本部
システム研究開発統括部
コミュニケーションシステム研究開発部
出川 智博
厚見 吉彦

マーケティングの逆張りで、京セラ初のアパレル業界に挑む!

--僕もすごく興味があったのですが、どのような経緯でこのようなシステムを開発しようとなったのでしょうか。
 出川:そもそも「何故?京セラがアパレル?」の問いに、先にお答えしたいと思います。一度展示会に、IoTユニットを出したことがあります。その時に、お問い合わせを頂いた業界の一覧を目にしました。すると、「衣料」業界からは0だったんです。僕はその「0」に着目しました。
 「もしかすると、アパレル業界の方ってそもそも京セラを知らないんじゃないか。だから問い合わせが0なのではないか」と考えました。そこで自分たちから「こんなのどうですか?」と提案してみることだけでも価値になるのではないかなと。そこが全ての出発点です。

--普通は、問い合わせがたくさん来る業界を攻めますよね。その逆なんですね。逆に「なんで0なんだろう」に着目し、「そこを攻めるにはどうするか」というところからスタートだったのですね。
 出川:自分がファッションに興味があることも、その理由の一つです。よくお店に行って服を選ぶことも多いですが、その場で買わないこともよくあります。その場で迷って、結局自宅に帰ってしまうこともあるのですが、家に帰ってそのお店のECサイトを見ても思い出せない…、なんてこともしばしばでした。そこから、備忘録と言いますか思い出せるような仕組みがあったら良いのに、ということでこのシステムの着想を得ました。

--あー、あるある!!メーカーのホームページで見ても似たような柄やちょっと形が違ったりするのがあったりして、こんなだったっけ?と思います。(笑)

オープンイノベーションと地道な努力で、店舗の課題に真摯に向き合う

--現在は、(株)TSI様のブランドであるナノ・ユニバースで実証実験を行っている*¹わけですが、クライアントであるTSI様との出会いを教えていただけますか?
 厚見:TSI様に知人がいたことがきっかけでした。そこからまずTSI様には弊社に訪問していただき、提供できる技術などをお見せしました。その後、我々がTSI様へ訪問し、店舗の展望などをお伺いさせて頂きました。その中で弊社は「どうやって協力できるか、どういったシステムを構築できるか」を提案させて欲しいとお願いし、実際の開発に進んでいきました。実店舗はどうしてもEC*²サイトよりも、情報量が劣ってしまいます。その情報の獲得にクライアントが課題を持っていらっしゃいました。
 元々出川さんがやりたいと思っていた個人の行動データ取得と、クライアントが抱く課題が上手く一致したことで、実際の開発に進めることができました。

*²…EC-Electronic Commerce- インターネット上における販売などの電子商取引


--目的が決まって、実際の開発に進んでいけるようになった訳ですがその仕様もクライアントと一緒に考えていかれたのですか。
 厚見:一番最初は、自分たちで実際の店舗に行って目視で調査するところからスタートしました。店舗にいらっしゃるお客様の行動をすべて列挙し、いわゆるエスノグラフィーを作成しました。入店から購買までのステップとして、どういう流れにするのが妥当かという仮説を立てて、クライアントにレビューして頂くことで、仕様を決めていきました。
 例えば、まずは服が掛かっているラックでハンガーを左右にスライドさせることからスタートしますよね。その次は、ラックからハンガーを取って…と言った具合に、実際に来店した顧客の行動を分析し、入店から購買までの顧客行動をモデル化しました。

--今回導入されたシステムの概要をお伺いしても良いですか。
 厚見:独自の状態検出アルゴリズムを搭載したセンシングデバイスをハンガーに付与し、そこからの行動で関心度をレベルで表示します。お客様は入店時にナノ・ユニバースが提供するアプリを起動して「チェックイン」します。その後、手に取った商品の情報が、ハンガーに装着されたデバイスや姿見・試着室に設置されたビーコンから、位置情報などや商品情報などがアプリに送信されていきます。
 ナノ・ユニバースはその情報を元に、コンテンツをアプリへプッシュ通知したりメールで配信します。

--実証実験が始まってみて、一番大変なことは何でしたか?
 厚見:実験開始当初は、やはり想定外の事象が多く、システムチューニングなど、なかなかハードなことも多かったです。
 例えば、私たちも当然店舗に置く前にかなりのテストを行い、その後実際に仮想店舗のようなものを作ってその中にハンガーラックや姿鏡や、試着室を置いてみて「もうこれだけの数字が出ているから大丈夫だ!」と、自分たちも自信をもって店舗に設置しました。しかし、最初のうちは、ハンガーに掛かっている服が異なる服のままになってしまっていたり…。電波干渉も、想像以上でした。あとは自分たちが想定していたよりも、鏡と試着室の距離が近すぎてしまったり。
 しかも、お客様が実際にご利用されている店舗なので微調整は閉店後に行っていました。最初のうちはチームメンバーで交代で、月曜日と金曜日にお店に行きハンガーと服の情報の確認を行うなど、大変なことが多かったです。しかし、それでもやはり一定の期間でチューニングをすることが出来ましたので、今はそこまで店舗にお邪魔しなくても、精度の高いデータを取得することが出来ています。現在は実証実験フェーズなので、やはり実際にご利用頂けるフェーズに進めるべく今活動しています。

リアルとEC店舗の融合で新たな顧客体験を届けたい。

 厚見さんと出川さんには、今後の展望まで含めてお伺いしました。
 まずは、現在実証実験をお願いしているクライアントでの全店舗での導入を目指しています。その後は、他のアパレル店舗さんなどにも広げていきたいと思っているところです。

 私たちのビジネスモデルは、取得している顧客データに価値を見出していくという方向です。そこに興味を持っていただけるパートナーを見つけるとともに、マネタイズのポイントも同時に探っていきたいです。アパレルの他にもセンサー類は小型化できますので、京セラのコンシューマービジネスの一つである宝飾品の販売などに利用できないかなどの可能性も模索しているところです。
 どうしてもセンサーが商品個数分の用意が必要になってしまうため、単価が低い商品ではなかなか導入ハードルが高いという難点もあり、まずはこのようなロイヤリティーの高い製品に対する分野を狙っていけたらと考えています*³。

*³…本実証実験はナノ・ユニバース・ラゾーナ川崎プラザ店のみでの実施です。体験にはお手持ちのスマートフォンにアプリケーションをインストールする必要があります。※収集したデータは本実証実験のみに使用し、プライバシーの保護には十分配慮しております。


編集部より

 世間ではメタバースなどで現実世界と仮想空間の融合と言われつつあるものの、実際のモノの販売には店舗販売やECなど多彩な販売方法があります。今まで、独自の進化を続けてきたそれぞれの間には相当な隔たりがあったのですが、今日のお話を聞いて、融合できなかったものが少しずつ混ざり合っていくことが実感できた気がします。
 実は別々だったり競合したりしていた組織も、繋がってトータル的に販売戦略を練ることができ、バーチャルとリアルの間を自由に行き来している消費者を追随できるのではと感じました。
 お客さんとしてはお店で見たものがいつでもどこでも買えて、お店側としては店舗の接客がどのような形であれ最終的な購買につながったことが見える化できる。そして実店舗と通販の間が取り払えて連携して販売をプロモーションを行うことで、双方のメリットがあるシステムになればいいなと思いました。

ナノ・ユニバース・ラゾーナ川崎プラザ店での実証実験が終了致しました。
たくさんのご来場ありがとうございました。