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「Quantum Annealing Day!~ 量子アニーリングで実現する新時代の働き方 ~」を開催!

 2022年3月25日、「Quantum Annealing Day」が京セラ株式会社のみなとみらいリサーチセンターで開催されました。
 2018年から、量子アニーリング研究開発コンソーシアムのメンバーである京セラは、株式会社シグマアイ代表取締役の大関真之氏とともに量子アニーリングをテーマとしたシンポジウムを行うなど、量子アニーリングの使用方法についての本格的な研究を始めています。
 今回のシンポジウムでは大関氏、大関氏と同じシグマアイで事業開発を担当する羽田成宏氏、さらに、東北大学量子アニーリングソリューションコンテストでの京セラ賞受賞チーム「Qool Consulting」を招き、「量子アニーリングで実現する新時代の働き方」をテーマとした、量子アニーリングの新たな活用方法を模索しました。
 今回は量子アニーリングのさらなる拡張に期待が膨らんだ、本シンポジウムの模様をお届けします。

量子アニーリングとその社会実装

 最初に登壇したのは、株式会社シグマアイの代表取締役であり、東北大学大学院情報科学研究科情報基礎科学専攻教授および、東京工業大学科学技術創成研究院教授も務める大関先生。「量子アニーリングとその社会実装に向けて」というテーマで講演していただきました。
 「皆さん、この講演を視聴するのにノートパソコンを使っていると思います。触ってみると温かいですよね?つまり、エネルギーを使って熱を発生させているわけです。このエネルギーをできるだけ使わないで、コンピューターの処理・計算ができないか、というのが量子コンピュータの研究の発端でした」

 初めに話していただいたのは、量子コンピュータの現況について。量子コンピュータに使われる量子力学のお話から、量子コンピュータの単位となる量子ビット、大きな2つの活用方式となる量子ゲート方式と、今回の主題となる量子アニーリング方式の成り立ちなどについて、日常的に関わる物事などに例えながら、分かりやすく解説していただきました。
 量子アニーリングは、量子力学の重ね合わせの原理を活用し、世の中に数多く存在する組み合わせの試行回数を処理できるため、組み合わせ最適化問題の解決に最適であることを解説していただき、次のように話されました。

 「これまでは複雑な選択肢の中からひとつの解答を選ぶような問題は、諦めていた部分があります。しかし、量子アニーリング方式が商用化されたことで、こうした複雑な問題にも果敢に挑戦していこうという機運が高まっています。そういうことが可能となるのも、量子アニーリング技術ができた真価じゃないかと思っています」

 問題を解決できるようになることも大きな進歩ですが、「何よりも新たな問題に取り組めるという意識の変化こそが最も大きな成果だ」と大関先生は語ります。

 続いて話していただいたのは、大関先生が「自分なりの社会実験」だと述べる「実践的研究開発による全国量子ネイティブの育成」、通称「Quantum Annealing for you(QA4U)」プログラムについて。
 これは、複雑な問題に対処できる量子アニーリングという方法を一般に公開していこうという試みで、オンライン配信を利用した“公開伴走型教育”のことです。YouTube Liveを活用して講義を生配信し、受講生はその講義に合わせてリアルタイムで作業を進行、作業する中で質問を募り、その寄せられた質問にすべて答えるという、まさに“伴走”という言葉にふさわしい講義です。
 全6回(うち2回は追加講義)の講義と、実際に量子アニーリングを使ったプログラミング演習、受講生が実制作するアプリのプレゼンテーションを行う卒業試験の3部構成に、500人以上が参加し、大盛況となりました。
 この活動の締めくくりとして行われたのが「量子アニーリングソリューションコンテスト」ですが、そこで京セラ賞を受賞したチームこそが、大関先生の講義を受けたグループのひとつである「Qool Consulting」です。「Qool Consultingから実際にアプリの説明をしていただきますので、それを聞いて皆さんも量子アニーリングでどんなことができるのか、一緒に未来を考えることができるといいなと思います」と、大関先生は結びました。

量子アニーリングを広げるMVEドリブンなビジネス展開

 続いて登場したのは、株式会社シグマアイで事業開発担当を務める羽田氏。羽田氏からは、シグマアイの現場レベルでの日々の事業内容を「量子ビジネス論」と表し、同社が量子アニーリングのビジネスとしての社会実装を目的とした東北大学発のスタートアップ企業であることや、日々さまざまな課題に取り組み、事業化に向けて研究開発を続けていることなどを紹介していただきました。
 中でも重要な視点として紹介していただいたのは「MVP」と「MVE」という考え方。“Minimum Viable Product”の略である「MVP」は“顧客に価値を提供できる最小限のプロダクト”を、“Minimum Viable Ecosystem”の略である「MVE」は、“価値提供できる最小限のエコシステム”を表します。
 実際は、両方ともビジネスとして取り組むのですが、羽田氏は量子アニーリングを考えた場合、「MVE」の方がより重要となってくると考えているそうです。

 「量子アニーリングビジネスをやればやるほど、MVEのアプローチが適しているんじゃないかと思います。まずエコシステムを作り上げてから、複雑化したシステムを解決するために量子アニーリングを用いる。そんなエコシステム主導のアプローチもあると思います」

 そう話した羽田氏は実例として、同社が仙台市と取り組むコールセンター業務支援サービス「whis+」を紹介していただきました。
 

 最後に「会場にいる皆さんは量子ビジネスエコシステムの仲間であり、ライバルだと思っているんですが、皆さんと一緒に盛り上げて、よりよい未来を作っていきたいと思っています」と語りかけ、講演を終えました。

シフト作成問題から考える、量子コンピュータと未来の働き方

 第2部では、大関先生からも紹介があった、「量子アニーリングソリューションコンテスト」で京セラ賞を受賞した「Qool Consulting」が登壇。「Qool Consulting」は、大関先生が量子アニーリングを使って「QA4U」の受講生の中から選抜したメンバーで構成されており、大学生から社会人まで多様な背景を持ち、得意分野も異なる“最適化”されたチームです。
 今回は京セラ賞を受賞した「Q-Fit」というアプリの開発に至る背景、課題設定や検証方法など実際に完成するまでの工程と、アプリの機能について紹介していただきました。

 「Q-Fit」は、量子アニーリングを用いたシフト作成アプリで、元々はコンビニエンスストア店長の勤務シフト作成業務の支援を課題として作成されたものです。被雇用者の勤務希望・欠勤希望はもちろん、法律上守るべき人員配置、各人員の特性(特定分野のスキル有無など)、時給やこれまでの勤務実績など、さまざまな条件を付加した上で、最適な勤務シフトを作成することができます。
 完成にいたるまでには、こうした諸条件を量子アニーリングマシンに取り込むにあたり、どのように定式化するのか、検証で生じたバグにどのように対処してきたのかなど、開発現場のエピソードをお話しいただくとともに、使い方についても実際のアプリの画面を例に解説していただきました。

 元々コンビニエンスストアだけを想定して、アプリの開発を行っていたものの、京セラ賞を受賞した際に京セラ株式会社理事の稲垣正祥氏から「究極の働き方改革につながる」とコメントされたことで、改めてアプリの意味について考えることになった彼らは次のように語ります。
 「今後より一層多様化する個々人のライフスタイルにおいて、雇用者と被雇用者双方の希望はより複雑化し、勤務作成のアプリは必須のものとなる。その際、最適なマッチングを実現するためには、量子コンピュータによる最適化処理が必要であると考えます」

 このような目的に向かい、「Qool Consulting」は「Q-Fit」のさらなる機能向上を目指し、ともに実証実験を行っていただける企業や団体を募集していると伝え、講演を締めくくりました。

会場で見えた量子アニーリング社会実装の可能性

 最後、「Qool Consulting」への質疑応答では会場からはさまざまな現場レベルでの質問や、実用に際しての質問が多く寄せられ、大いに盛り上がりました。
 実際のシフト作成で起こりうる問題を基に議論を重ねていく、来場者と「Qool Consulting」のメンバーとの熱いやりとりは、大関先生が「QA4U」で目指した、量子アニーリングを皆が使える社会の可能性を感じさせるものとなりました。京セラは、これからも量子アニーリングによる様々な最適化によって便利で豊かな社会を目指していきます。