OIA Open Innovation Arena
  1. Home
  2. オープンイノベーションアリーナ
  3. Catalog
  4. 電源不要で電波を隅々まで!京セラのメタサーフェス電波制御技術

オープンイノベーションアリーナ

電源不要で電波を隅々まで!京セラのメタサーフェス電波制御技術

 みなさん、家でWi-Fiを使っていますか?Wi-Fiって便利ですよね。家のどこにいても電波が届きます。それは、Wi-Fiに使われている電波の周波数が数GHzと比較的低い周波数であるためです。低い周波数の電波ほど、曲がりやすいため、家の隅々にまで電波が届きます。
 一方で、現在4Gから5Gの社会実装が広まっており、2030年頃には6Gが始まると言われています。4Gと5G・6Gの違いの一つが「使われている周波数帯域」です。5G・6Gで用いる電波は、通信帯域幅を確保するために、4Gより前に使われていた周波数よりも、一般的には一桁高い帯域の周波数*¹が用いられます。
 しかし、電波は高周波になればなるほど光に似た性質となって物陰に届きにくいという性質があります。4Gの電波であればビルの陰に届いたものの、5G・6Gの電波は届かない、そういう問題が指摘されています。

 電波が届かないとどうなるか?たとえば、工場内で5G通信を用いたマシン制御をする場合、工場内の見通しが悪い場所においては、適切に機械に信号を送ることが出来ないためそれらの制御が出来なくなるという問題があります。また、近年のコネクテッドカーのように、5G通信にて自動車と常に通信をする必要がある場合に自動車がビルの谷間などの電波が届きにくい場所を走るとき、信号の送受信ができなくなってしまうという問題も生じます。
 このような問題を解決するため、今回、京セラは電波を曲げるデバイス「透過型メタサーフェス屈折板*²」を開発しました。

*¹…4G(第4世代通信規格)は数百MHz(メガヘルツ)から数GHz(ギガヘルツ)の周波数帯、5G・6G(第5・第6世代通信規格)は数十GHz以上の高い周波数帯が用いられます。
*²…「メタサーフェス(metasurface)」とは、人工的に作り出された、自然界には存在しない物理的特徴を発現する構造面を指します。

なぜ、5G電波(高周波電波)は物陰に届きにくくなるのか?

 実は、高い周波数の波は、低い周波数の波に比べて建物の陰に回り込みにくくなるという性質があります。具体的な例を、電波ではなく音波ではあるものの、高速道路の防音壁を用いて説明します。高速道路には、走行時に発生する騒音が周りに拡散するのを防ぐために防音壁が設けられています。この防音壁の外側のすぐ脇に立って高速道路を走る車からの騒音を聞いてみてください。

 低い音は漏れ聞こえると思いますが、高い音についてはあまり聞こえこないはずです。これは、高い音(高い周波数の音)ほど直進性が高くて防音壁直下まで音波が回り込みにくいためです。一方で、低い音(低い周波数の音)は物陰に回り込みやすい性質を有するため、防音壁直下にまで音が届きます。
 上記例は音波による具体例ですが、音波と同様に、電波についても高い周波数の波は物陰に回り込みにくくなります。

タイミングをずらすことで電波を曲げる発想!京セラ初の技術、「透過型メタサーフェス屈折板」!

 したがって、5G通信においては、物陰に電波を回り込ませる技術、つまり、「電波を曲げる技術」が新たに必要になってきます。
 そもそも、電波が曲がるとはどういう状況を指すのか?
 これを説明するために、以下の図1と図2を用いて説明します。
 電波が曲がらない状況、つまり電波がまっすぐ進む状況というのは、図1に示す通り、海岸に打ち寄せる波のように、波が横一列に並んで進む状況を指します。
 それに対して、波が曲がる状況というのは、図2に示すように、横一列で並んで進んでいた「波の一部の進み具合」が、途中で変わってしまうことで生じる状況を指します。

 この「波の一部の進み具合」が途中で変わってしまう状況をもう少し詳しく説明します。
 下図は、上図2の波をグラフ状に表現したものです。波の一部の進み具合が途中で変わるというのは、波の進み具合をちょっとずつ(今回の例では1/4ずつ)ずらすということです。言い方を変えれば、波の「タイミング」をちょっとずつずらす(位相*³をずらす)とも表現できます。

*³…「位相」とは、一つの波における位置を角度で表したものです。例えば下図のような「山と谷のワンセットで表される一つの波」において、最初の「0」の位置が0度、山の頂上の「+1」の位置が90度、次の「0」の位置が180度、谷底を270度と、位相で表現することが出来ます。

「電源不要」で電波を曲げることが出来る!

 実は、「電波を物陰にまで送り込む技術」は既に存在します。代表的なのが「レピータ」と呼ばれる装置を用いる方法です。
 「レピータ」は、ビルの屋上などに設置されている大きな基地局からくる電波をキャッチし、それを別の方向に向けて再び増幅させて発射することで物陰に電波を送り込むことが出来ます。たとえば、屋内のカフェなどに設置されており、地上にあるアンテナで外の基地局からの電波を受信し、カフェの中に新たに電波を発射します。

 しかし、「レピータ」は電波を飛ばす方向について細かい制御が出来る一方で、その制御のための電源が必要になります。
 京セラの「透過型メタサーフェス屈折板」は、電源を全く必要としないところに大きな特徴があります。
 この「透過型メタサーフェス屈折板」を使用することで、たとえば、上述のように工場内に敷設された5G無線通信網を、工場建屋の隅々にまで行き渡らせることが可能になります。

 また、4G、5G通信網をハイブリッドに用いる自動車との通信においても、物陰に隠れてしまった車に対して5G無線通信を提供することが出来るようになるため、常に5G通信網にて自動車との高速・大容量のデータ通信が出来るようになる可能性があります。
 更には、「透過型メタサーフェス屈折板」を、窓ガラス付近に配置し、且つ、基地局のすぐ近くに設置するという応用例も考えられます。具体的には、基地局をビルの屋内に設置し、電波を飛ばす方向を本屈折板で制御するという使用例が考えられます。

 現状、基地局は街中の色々な場所に設置されており、目立つところに設置されることも多いです。しかし、将来的には、「透過型メタサーフェス屈折板」を上述のように用い、さらには基地局をビル屋内に「隠す」ことで、オフィス街の美観を保つことも可能になると考えられます。
 これからの時代、5G・6G通信網が街中のありとあらゆるところに張り巡らされていくことが予想されます。そのようななか、京セラの「透過型メタサーフェス屈折板」は簡便に(電源不要で)5G・6G通信網の敷設を行える可能性があります。京セラは、5G・6G通信網の拡大に貢献すべく、本技術の更なる改良に取り組んでいきたいと思います。上記技術に基づいた「共創」にご興味をお持ちの方からのご連絡をお待ちしております。

この記事の感想をお聞かせください