【連載:第2弾】現代での"しあわせ"の形とは?議論から見えてきた"しあわせ"の定義
第3回目となる異種格闘技戦は、京セラの稲垣と大崎によるオープニングトークからスタート。まさかの稲垣が日本が誇る特撮ヒーローの最高の悪役の姿で登場するという、力みすぎた出落ち感満載で、本編が始まりました。
今回レフェリーでプロデューサーの川原卓巳氏は、どうやら『オープニングトークに殴り込んできてください』と言われていたようですが、「あの流れに乗ったらスベると静観を決め込んだ」という裏話を披露し、早くも予定調和をぶち壊す流れに。そして、ここからさらに予測不能な議論がスタートします。
目次
モノを持つ“しあわせ”から、出会い、ときめく“しあわせ”に
まずは川原氏が、同じく今回のレフェリーで妻であり、片付けコンサルタントとして独自の「こんまりメソッド」を提唱し人気を集めた「こんまり」こと近藤麻理恵氏と仲むつまじいところを見せつけるところから議論がスタート。ちなみに近藤氏は、今回ロサンゼルスからオンラインでの参加となりました。
川原氏の「“しあわせ”の定義を持っているか」との問いかけに、近藤氏は「自分がなににときめくのかを知っていること」だと答えました。断捨離と一緒にされてしまうことの多い「こんまりメソッド」について、「捨てるのではなく、ときめくモノを選ぶ」というマインドだと話し、これを繰り返すことで、片付けにとどまらず、すべての物事に対して前向きな視点を持つことができるようになるそう。
川原氏が「今回の結論はこれで」と、レフェリーとしてあるまじき誤判定を出しそうになりながらも、この“ときめき”と“前向き”というキーワードを中心に、議論は白熱していきます。
総合地球環境学研究所長 山極壽一氏:「僕は“しあわせ”を作る3つの自由があると思っている。動く自由、集まる自由、語る自由。それらを全部自ら気付きに行かなければわからないもの。僕は気付きって言っているけど、麻理恵さんの“ときめき”と同じことだと思う。」
山極氏は人が“しあわせ”になるためには出会って、気付いて、ときめくことが必要と主張し、そのためにはモノがないほうがよいとも。
日立製作所フェロー 矢野和男氏:「GDPが伸びても幸福度が伸びていない。ロジカルになってしまったさまざまな判断基準に、人の心を入れることが大切な時代になっている。いつかは死んでしまう中で、どんなストーリーを組めるかは気持ち次第。“前向き”でいられるということは“しあわせ”そのものだと思う。」
“ときめき”を見つける「こんまりメソッド」は、学術的にもマッチしているという矢野氏は、モノや経済活動などロジカルな判断基準よりも、人の心が大切だと訴えました。
他者を通して見える“しあわせ”
自分自身ではなく、父親からの言葉で“しあわせ”に気付いたと話すのは、元サッカー日本代表の鈴木啓太氏。
鈴木氏:「父親と旅行に行ったときに、『お前はいいよな』って言われたんですよ。5万人の前で優勝カップを掲げたことも、5万人に批判を浴びたことも知っている。その振り幅が人生じゃないか、それが“しあわせ”なんじゃないかって言われてハッとしました。ポジティブなことも重要なんだけど、ネガティブなことも“幅”って考えると逆にポジティブに捉えられると、父親に言われて気付きました。」
この意見に賛同したのが、瀬戸内寂聴氏秘書の瀬尾まなほ氏と山極氏。
瀬尾氏:「“しあわせ”は自分の中にあると思うけど、自分自身でも気付けていないものでもあると思います。相手がいるから自分がわかるということも、すごく“しあわせ”なことだと思う。」
山極氏:「人間は自分で自分を定義できない。人から定義されるからこそ自分はこういう人間だと思える。そこから共感が生まれ、その共感によって社会が成り立つのだ。」
一方で、AIの出現により、他者との関わりが減ってきているという懸念についても山極氏は指摘します。AIに判断を任せて、他者を知ろうとしなくなることは“ふしあわせ(不幸せ)”ではないかと語りかけました。この疑問に応えたのが、矢野氏。敬愛する文芸評論家の小林秀雄氏の言葉を引用しながら、AIはあくまで知識であるとして、“知る”ことと“信じる”ことは異なると話します。“信じる”ことは責任を持つこと、“自分を信じ、他者を信じる”ことの重要性を語りました。
れに対して、近藤氏は「ときめくと分かったら自分を信じて行動しなければならない。しかし、ときめいても捨てる行動が出来ない人がいる」と発言。自分の“ときめき”を信じて行動できるかどうかが“しあわせ”を掴む鍵だと話します。
そして、ロスとの時差の関係もあり、近藤氏はここで途中退場。川原氏がどことなく寂しそうに…。
ネガティブでも“ちょうどいい”、前向きな気持ちが“しあわせ”につながる
次に話題となったのが、川原氏が瀬尾氏に「寂聴さんはまさに振れ幅の神みたいな人だけど…」と話を振ったことから始まった、「自分を肯定して生きてきた」という話。ここでは、心理学用語でいう“オプティミズム=楽天主義”という考え方で話が盛り上がりました。矢野氏の語った「単なる楽観性ではなく、物事をポジティブなほうに変換するスキルという思考も、“しあわせ”には重要だ」と意見が一致しました。
ヤッホーブルーイング代表取締役社長 井手直行氏:「僕の会社では、すごくいい言葉を共有しているんです。それが“ちょうどいい”という魔法の言葉。例えば、車で会社に向かっているときにパンクをしたら、これは最悪。でも、あと10m先でパンクしていたら交差点で止まって死んでいたかもしれない。だから、これは“ちょうどいい”。物事は無色なのに、人間は色をつけてしまう性分がある。ネガティブなことでも事実は変えられないんだから、よく見たほうが100倍得だよね、という考えを共有している。」物事をポジティブにするのも、ネガティブにするのも結局は自分の気の持ちよう次第。矢野氏によると、こうしたオプティミズムは誰でも簡単に伸ばすことができ、“しあわせ”はある種のスキルとのこと。
ここまで、さまざまな“しあわせ”が登場してきましたが、“しあわせ”とは「前向きな気持ち」と「他者との関わり」ということに尽きるのかもしれないと感じられた前半戦。しかし、「前向きな気持ち」は自分自身と向き合えばよいですが、「他者との関わり」には相手が存在します。現代ではSNSの交流が、“しあわせ”につながっている人がいる反面、それが“ふしあわせ”につながっている人も。
後半戦では、この“ふしあわせ”について、議論が進んでいきます。“しあわせ”というテーマから一転、“ふしあわせ”について議論がなされた後半戦は、次回ご紹介します。ぜひお楽しみに。