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「異種格闘技戦'20」今こそ"POWER of DESIGN"

多彩な有識者を招いたパネルディスカッション「異種格闘技戦'20」開催!

 京セラ研究開発の東の拠点であるみなとみらいリサーチセンターでは、2020年10月9日「POWER of DESIGN | 混沌から生み出す美しい未来」と題し、第二回パネルディスカッション《異種格闘技戦 ‘20》を実施しました。今年はコロナ禍中ということもあり、無観客トークバトルをライブ配信。今年の開催は、みなとみらいリサーチセンターが人の交流や可能性を触発する場であることをより強く意味づけ、特にコロナやVUCAに負けない明るい未来を目指す私達の姿勢の表明が目的でもありました。おかげさまで、参加者数も昨年の倍近い500名を超え、登壇者の方々のご協力と関係者全員の力で実施に至った記憶に残るイベントになりました。

テーマ「POWER of DESIGN」への期待

 コロナ禍でよく言われるのは、with/afterコロナの社会では過去を参照した予測や価値観が通用しなくなるということ。また利便性や合理性を優先した社会ではなく、より人間的で美しい未来であるということ。デザインの語源は計画や構想を記号化することですが、嗅覚を鋭く保ち主体的に表現するアートや、美しい未来に向かってあらゆる事象を構想・具現化するデザインの力がこれからの時代を牽引していくと言えます。
 また、山口絵理子氏のリモート登壇を含むリアル/バーチャル混在の討論会はいわばコロナ禍独特のスタイルであり、変化過渡期の臨場感のあふれる体験となりました。

【パネラー】
ウスビ・サコ
スプツニ子!
川上浩司
山口絵里子
暦本純一
深澤直人
【モデレーター】
山口周

恒例のゴングで開幕!!

カメレオンマスクの登場に続き、モデレーターの山口 周氏のゴングから討議はスタートします。

山口(周)氏:来春のダボス会議(世界経済フォーラム)のテーマはグレートリセット。デザインは広義では社会、コミュニティ、都市のあり方などを主体的な意図をもって構想することに繋がります。前半はここ1年の動きを各登壇者の目でどのように捉えたか、後半はどの領域をどうリデザインしていくかに論点をあてます。

前半戦:ここ1年の日本や世界の動きをどのように捉えたか

サコ氏:便利さやテクノロジー開発の過程で「人間」のことを忘れていた。人と人、家族、仕事の関係や自分自身など、自分そのものに向かわせて大事な事に気付かせてくれた。今後は「人間とはなにか」が物事の中心になっていくと思う。

暦本氏:1年前のFacebookを見ると不思議に感じるくらい変わったが、急なオンライン化とは逆にローカルの凄さは揺るぎない。京都の街を歩きながら東京の会議に出るなど、フィジカルな大事さが際立って感じる。人間にとって大事な、デジタル化をやりこなした後のローカルを考えていきたい。

スプツニ子!氏:すごい速さでDXが起きたが、コミュニケーションと情報の流れのあり方をデザインしないといけない時代。政治や教育に悪影響を与えないように、ソーシャルメディアのデザインが必要。一方多様な視点(女性、LGBT、Black Lives Matterなど)で未来を提示し作っていこうという動きもある。

深澤氏:自分の身の回りの狭さが分かり、本当に何が必要なのかに気づけた良い機会。また、ニュースではコロナの俯瞰情報の見える化がされておらず、なぜ的確な情報が伝えられないかということに苛立ち、また自分も考えないといけないと思う。

山口(周)氏:あらゆる物事は以前の生活に最適化されているが、今その合理性が問われている。新しい必然や合理を考える際にデザインというキーワードはとても良い。

山口(絵)氏:私は日本で経営、途上国でものづくりをしている。日本では効率化もみられた反面、アナログなものづくりは上手くいかないもどかしさがある。ライフスタイルの変化などの意見を店頭でキャッチすることが大事で、データで時代を読むことが難しい。
(途上国と先進国の分断や経済成長と人間性に関する問いかけ:山口(周)氏より)
バングラデシュではムスリムの工員に手洗いやスプーン使用の理解に努力が必要だった。経済格差と教育は密接に繋がっており、衛生知識の不足で被害が拡大していると感じる。

川上氏:私は不便益を研究しているが不便や便利とは何かを今一度考えさせられた。いつでもどこでも誰とでもが便利のスローガン。今だけここだけ僕らだけは不便のスローガンだと思う。不便じゃないと得られないことが体感できた。

価値基準について

サコ氏:教育とリテラシーの関係を見直したい。価値基準は一つではなくマルチフレームのほうが良い。本人が学ぶべきことを選ぶようになり、今後は先進国と途上国という枠組みははずれるだろう。

山口(周)氏:グレートリセットはものさしを見直すもので、豊か=先進国という近代化ルールが今後問われる。

山口(絵)氏:途上国から職人がやってくると、都市が必ずしも良いものではないとは分かっても、まだ見ぬ夢を捨てきれない彼らに近代化には別の側面が有ることを伝えるのは非常に難しい。

スプツニ子!氏:経済発展と教育・リテラシーは必ずしも連動していない。価値観のものさしの多様化や文化を理由にジェンダーロールの悩みや暴力を放置できない。線引きが難しいが、伝統や多様だから変わらないというエクスキュースになりえる。

サコ氏:ダイバシティで大事なのは守るべき人権の最低ライン。もう一つリスペクトすべきことは、例えばインドのスラム街で生活できるクリエイティブさや多機能性。彼らの価値観を変えるより、その視点から自分がどんな新しい価値観を得られるか。

暦本氏:先進国特有の考え方や、また我々のようなシニアの発想があるかも。国の経済格差や、若年者の人間関係構築の懸念など、この場のニューノーマルはある一定以上の層からの視点かもしれない。

山口(周)氏:既にオンラインゲームでアドホックに集まることに慣れている子ども達のようなニュージェネレーションは次元の違うニューノーマルを迎えるとも言える。

後半戦:ゼロリセットするなら、どの領域をどうリデザインをしていきたいか

サコ氏:アートは内面から、デザインは外からくるもので出来ている。これからは、コミュニティなどの内発的なものにどう付加価値をつけるか重要になる。デザインとアートの分断ができなくなり、その共存のありかたがリデザインの価値基準になるかもしれない。今後、コミュニティ再生の過程で、人間関係のあり方やトラストベース社会づくりを意識したいと考えている。


暦本氏:徹底的にバーチャル化してみたい。ハンディキャップがある場合などもデジタルコミュニケーションがリアルを超えることも多く、大きな期待がある。Zoom会議をしながら鴨川を歩くなど、ウマいとこだけを部品として組み合わせてリデザインできるようになる。

山口(周)氏:自分で編成することが移譲された総編集社会と言える。オプションフリーでなんでも選べる社会になると、主体が問われる時代がやってくる。ノームがなくなると不安が増えたり、個性が求められるかも。

スプツニ子!氏:好奇心のある人には魅力だけど、ほとんどの人は活用できないだろう。
最近のネットは都市部でのリアルより古い価値観が多く、壮大な田舎のような感じがする。15年前とは違い、全てとつながることが先進的な物事を生むわけではないようだ。

深澤氏:自動運転バスはお客さんにとって便利であれば内容はどうでもいい。複雑な社会に対して単純な答えを出してあげることがデザインに与えられた使命。また、群衆の創発のスイッチになる要素を発見したり、懐かしさのリアライズをしていきたい。
ささいな違和感を丁寧に直していくと創発やクリエーション同士が合わさって別のものになり始める。みんなが一斉にあれ?と思うことに気づくことが大事。

川上氏:社会デザインは本質的にパッシブ。IDEOのデザインシンキングもパッシブだと思う。問題の定義が大事。アートシンキングはアクティブなデザイン。

サコ氏:疑問を表面化し、問いを立てる力を学生に求めている。デザインは課題がありソリューションを生むことだと皆は思っていて、何もないところから何かを作ることを想像出来ない人が多い。私はソリューションだけじゃなくてもよいかと思っている。

スプツニ子!氏:スペキュラティブデザインで問いを立ててきた。Design for Debateつまり議論のためのデザインだが、最近はスピードが速いので議論している間に実践してしまう。問いを立ててすぐスタートアップする時代であり、山口さんの仕事はそれをやっている。

山口(絵)氏:コロナ禍でバッグを回収し、日本で解体してリメイク。面倒だったがこれが一番人気になり数店舗を回って買い物をする人もいる。これは不便益だと思う。PDCAを小さい投資で回してピボットを踏んでいける仕組みが生き残る戦術かも。

サコ氏:コロナになって初めて物事を進める中で人間が主体になってきたかと思う。しかし、現段階では社会をどう変えるか、社会の新しいあり方をどのようにすべきかについてあまり良い解がないに思う。コンピューター・サイエンスが出す解は参考にできるが、人間主体ではないのが怖い。

暦本氏:快適な不便(=歩く)と別に、快適じゃない不便(=通勤電車)がある。これをテクノロジーで取り除きたい。

山口(周)氏:豊かさがあるレベルを超えると豊かさと文明化が逆行を起こす。薪ストーブが受けたり、38年ぶりにレコードの売上がCDを超えたりと、心地よい不便益が起こってくる。便利や快適のトラジェクトリの上に価値があると言えなくなると、ビジネスの側面で難しい時代になる。

川上氏:不便益を新しいものごとの設計論に持ち込みたい。(懐古趣味ではなく)新しい物事をデザインする知見が含まれていて欲しい。

深澤氏:テクノロジーでフィジカルをVRに置き換える動きがあるが、比べて論議している時点でレベルが低い。それぞれの良さに対して感動する美学を与えないとだめで、大切な体験を失わせてしまっている。

サコ氏:コロナはビジネスチャンスだとされているがそうではなく、今は物事の本質を見直すチャンス。見直す時に便利、不便、懐かしさ、我々の気持ちも含めてどう組み合わせてリデザインするかが重要。

ライブ視聴者からの質問

「コロナ禍によって価値観や生活スタイルが変化しつつあります。変わって良かったことってあると思いますか?」

スプツニ子!氏:どこでも仕事ができる世の中を実現してほしい。パートナーが居るときもお互いに離れてしまったり、女性が諦めることもなくなる。

深澤氏:パリのカフェはパリでしか働けないので一概には言えない。ローカルカルチャーはその人達によって成り立っている。

山口(周)氏:どこでも仕事ができると本質的な意味で場所の魅力などコンペティティブネスが問われる。

暦本氏:鴨川のほとりで東大の教授会に出るなど、選べることの究極の豊かさはテクノロジーがあって初めて成り立つ。それにローカリティの経済スキームが一体化されると、各都市がさらに魅力的になる。一極に集まらず良いサイズの都市を移動したり根付いたり、選べるようになるのは大きな可能性を感じる。

山口(周)氏:バーチャル空間で働くと富の移転を主体的にコントロールできるので、とてもおもしろい変化が起こる可能性がある。

デザインに何ができるか

深澤氏:法、規制、リーダー決定や政治の動かし方等にもデザインシンキングの視点が入っていくべき。適宜ビジュアライズしないと混沌として混乱を招くことになってしまう。瞬時にもっと正しくクリエイティブな答えを出せることがあるはず。

川上氏:元はプロダクトデザインの考え方からきたデザインシンキングだが、同じフレームで新しい物事を考え出すことができる。この先には多方面でのサービスや政策などがあるだろう。

サコ氏:デザインは定義が曖昧で難しく、デザインそのものが独り歩きしている。歴史の中で我々はものごとの「あり方」「あり様」をとらえずに変化を求めてきたので、未だに18世紀の会議スタイルをとっている。デザインの本質にはまだ触れていないような気がする。

スプツニ子!氏:デザインにはゼロイチで問いを立てて生み出す力がある。今気になるのは政治や社会のあり方。対立する米国と中国と、その間に日本がいるが、デザインでどういう未来を作り出すのか、沢山の問いを立てて行く必要がある。

暦本氏:問題解決のレイヤーが変わってきた。通勤がなくなると通勤電車の概念が消えるかもしれない。社会が変化を受け入れるなら問題解決のレイヤーも多様になるが、一番上から変えたい。肌感が大切だがそれ以外の人工的な制約は変えられるはず。

山口(絵)氏:お客様の問題解決のためにデザインしてきたが、最近は私が好きなパンダのポーチが売れるなど偏愛にパワーがあると思う。マニアックな拘りをビジネスの世界にもってきたら起業家になっていたが、これを大事に武器だと思ってやっていきたい。

山口(周)氏:方向は分からないという皆さんの発言が正解だと思う。だが立ちすくむわけにはいかない。川上さんのおっしゃったパッシブが大事だと思う。自分の中に湧き上がる喜怒哀楽、自然な違和感や悲しみとか喜びなどを糸口に社会のあり方を考えていくしかない。
答えのない問いを続けていくしかないが、その行為はアクティブであるべきで、問いに対する答えが世の中から返ってきた時、その先に新しい未来が開けるのだと思う。

尊敬しているヨーゼフ・ボイス(社会彫刻家)は、一般の人達も社会という作品の制作に関わるアーティストのひとりだと唱えている。今日集まった皆さんはそれぞれの立場で社会に関わり、逡巡して悩み、歩みを止めない社会彫刻家としてのロールモデルになるだろう。

【事務局より】
ぎりぎりまで開催が危ぶまれる状況でしたが、パネラーの皆様の肌感覚で臨場感に溢れた、あの瞬間とあの場と彼らでしか生まれないPOWER of DESIGNの交錯が生まれたと思います!美しい未来に期待!