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【連載:第3弾】お金って幸せになるためのツール!?白熱したトークバトルの行く末は?

 「お金ってなんだ!?」をテーマに各界を代表するパネラーたちが激論を交わす第4回「異種格闘技戦’22」。前半戦ではテーマに沿ってお金や経済の仕組みを紐解くとともに、お金を介した大量生産大量消費という物質的な幸せの限界、そして、人との関係性という新たな価値まで話が展開されていきました。
 後半戦では、前半戦で語られたお金を通して得られる物質的な豊かさの限界という意見を踏まえ、未来のお金のあり方について議論がスタートしていきます。
 社会活動を行う上で、人間の幸せと切っても切れないお金。価値観やテクノロジーの変化とともに、お金のあり方は、そして、人間の幸せはどのように変わっていくのか、白熱の議論の行く末をぜひ最後までお楽しみください。

指数関数的なテクノロジーと、幸せのギャップ

 各界のパネラーたちがそれぞれ抱えるお金に対する考え方が乱れ飛んだ前半戦。終盤間際には、住友生命保険相互会社上席執行役員の藤本宏樹氏が発した『かせぎ』と『つとめ』の例にあるように、自分の属するコミュニティでの働きを元にした関係性の構築など、非貨幣経済というものが今後は重要視されていくのではないか、という形で意見の一致が見られました。
 後半戦では、このお金や幸せへの価値観の変化という意見を受けて、テクノロジーの面から「マネーの未来」をテーマに議論がスタートしていきます。

 まずは、レフェリーである日本経済新聞社記者・コラムニストの中山淳史氏が、近年話題のWeb3.0やメタバースがお金を変えていくのでは、という意見を元に、クラスター株式会社CEO加藤直人氏に近年のテクノロジーについて意見を求めます。

 加藤氏:「Web3.0とメタバースは同列に語られることがあるが、全く関係がない。どちらもイデオロギーの話です。」
 このように語る加藤氏いわく、メタバースは現実の物質から解き放たれてデジタル空間という新しい世界に行こうという考え方であり、Web3.0についてはデジタルの非中央集権化であるとのことで、Googleなどを始めとした巨大IT企業などの支配から脱却し、個々のクリエイターに価値を還元しようという動きがあるそう。

 また、デジタルの進化のスピードは凄まじく、メタバースに限定して言えば、15年前から計算やデータ通信処理などの量がおよそ1,024倍と指数関数的に上昇している、という驚愕の事実を伝えました。
 そんな激しい変化が起こるテクノロジーに対して、疑問を呈したのが藤本氏と元・朝日新聞社で現在はフリーランサーの稲垣えみ子氏。

 藤本氏:「現在、ウェルビーイング(心身ともに良好な状態)なサービスに関心がある。テクノロジーが発展する一方で、それに取り残されている人がいる。そこに対してどう幸せを実現していくのか。」
 稲垣氏:「リアルな世界はひとつしかない。そこに風穴を開けたメタバースは可能性を感じる。一方で、替えが利かないからこそ何かが生まれることがある。そこを気にしなくてもいいというのは個人的に引っかかる。」

 この意見に対して、加藤氏はひとつひとつ持論を展開していきます。
 稲垣氏の意見に対しては、若者が投票しない理由が、投票しても世界が変わらないなら自分で起業するなどして世界を変えれば良いといった反抗心だという議論を行った経験を元に、メタバースも「地球はひとつしかないのだから環境を守ろう」といったことに対する反抗心がモチベーションになっている面があると答えました。
 一方で、藤本氏のウェルビーイングの話については、将来のお金の重要な要素として、福利が利くかどうかをポイントとして上げつつ、指数関数的に増える福利に対して、人間の幸せという尺度はゆっくりとしたものであるとし、経済やテクノロジーに幸せが追いついていないという現状に賛同を示しました。

物質以外のものに所有権はあるのか?未来のお金は誰が管理する?

 テクノロジーや経済の進化と、人間の幸せについての議論が一段落し、ここからはいよいよ未来のお金、いわゆる「デジタル通貨」に対する話題へと議論が進んでいきます。
 論点のひとつとなったのが、東京大学大学院で教授を務める渡辺努氏と加藤氏が激論を交わした「所有権」という問題。お金にしろサービスにしろ、物質として存在しないバーチャルなものをどう管理していくのかということでした。渡辺氏から質問される形で投げかけられたこの議題に加藤氏は驚きの答えを返します。

 加藤氏:「今、デジタルの世界に所有権という概念がまずない。」
 ビットコインなどの仮想通貨の取引記録を記録するブロックチェーンや、それを応用したNFTなど、データの保有に対する権利を保護する技術は出てきているが、結局そのデータを誰が登録して管理するか、という部分は解決していないといいます。
 加藤氏によれば、75億円で落札されたことが話題になったデジタルアートも、実はURLをクリックすれば誰でも見られるものになっているそう。

 渡辺氏:「経済発展の要件の一番最初は実は所有権だと思っている。人間が成長や生産を増やすような活動をするためには所有権は外せない。」
 渡辺氏はシェアリングエコノミーなど、物を持たない文化の可能性は感じつつも、所有権を持つことで経済が発展してきた歴史に触れ、お金としてデジタル通貨が機能するためには所有権を付加し、誰かが管理することが大切だと語ります。

 デジタルテクノロジーを活用して、お金のあり方が変わっていく可能性がある一方で、幸せの形も変わっていくもの。未来の幸せについても議論が白熱しました。
 序盤にウェルビーイングという考えに触れた藤本氏は、どれだけデジタルが進んでいっても、その裏側にはフィジカルな世界があるとし、デジタルのお金とフィジカルのお金、幸せとお金のバランスというものが重要になってくると話を締めくくります。

 藤本氏:「生命保険は経済的にウェルビーイングを保証しましたが、生命保険だけじゃ幸せは実現できない。GDPからGDWが重要な指標になっていくと思う。」
 法政大学人間環境学部教授 湯澤規子氏:「リビングウェイジ(生活賃金)は食べるため、だけではなく余暇や趣味も含めて考えるもの。メタバースの中で、働くことの意味をどういうふうに持たせていくかを考えていく必要がある。」
 稲垣氏:「テクノロジーもお金も人と人がうまくつながるためのアイテム。お金を貯めて、誰かに食べ物などをあげることが一番ハッピー。使い方ややり方によって、お金が生きたものになる。」
 結局のところ、今も昔もこれからも、お金というものはあくまで人間が幸せに暮らすためのツールでしかありません。いま、大量生産・大量消費が限界になり、物質から解放されようという考え方は、むしろ幸せのかたちを考えると自然なことなのかもしれません。

 予測不能のトークバトルは、最後まで明確な答えにたどり着くことなく規定の時間を15分以上オーバーして終了。答えはなかったものの、新たな気付きや可能性が生まれた時間となりました。
 デジタルで実現されるかもしれない未来のお金の所有権がどう定義されるのかはわかりませんが、幸せの所有権をフィジカルな私たちがしっかりと持っていることこそが重要なのかもしれません。忖度なし、白熱する予測不能のトークバトルが、次はどんな気付きを生み出すのか、「異種格闘技戦」のこれからにぜひご期待ください。