クロスインダストリーとは?注目される背景や導入事例
顧客のニーズが多様化し、技術力の高さとその多様性の両方が必要とされる現代では、他業界と連携してそれぞれの業界知識を組み合わせる事業展開が求められています。それがクロスインダストリーです。
本記事では、クロスインダストリーの概念から注目される背景、日本企業が行う具体的なクロスインダストリーの事例を紹介します。
目次
クロスインダストリーとは?
一般的に、留守中に自宅に入られると防犯上の観点でトラブルが懸念されます。しかしインホームデリバリーでは、配達員がウェアラブルカメラで中継する配達の様子をスマートフォンで確認可能です。小売業と運送業がITで連携したサービスの一例といえるでしょう。
また、日本でも国土交通省やNTTデータがMaaS(Mobility as a Service)によるクロスインダストリーに取り組んでいます。MaaSとは、地域住民や旅行者などの移動ニーズに対応し、複数の公共交通機関やそれ以外の移動手段を最適に組み合わせるサービスです。検索や予約、決済などが一括で実行可能となり、利便性の向上や既存公共機関の有効活用、外出機会の創出による地域活性化が期待できます。
国土交通省では、日本版MaaSの将来像や今後の取り組みの方向性を検討するための標記懇談会を開催しています。また、経済産業省も連携し、移動課題を解決して地域活性化を目指すために、地域と企業の協働による挑戦を促進させる新プロジェクト「スマートモビリティチャレンジ」を開始しました。
NTTデータでは、移動体験に着目した新しい価値を「モビリティコマース」と呼び、MaaSに取り組む事業者の協力を呼び掛けています。モビリティコマースとは、カーナビゲーションなどの車内に設置したデバイス上に表示されるキャラクターが、目的地周辺の観光情報を紹介してくれるサービスです。NTTデータはクロスインダストリーを推進し、このような生活者起点のサービスを再構築しています。
クロスインダストリーが注目される背景
現代において、クロスインダストリーが注目され始めた背景として、インターネットをはじめとしたIT技術の発展があります。製品は高度化・複雑化し、機能ごとに分割してまとめるモジュール化が進みました。また、競争の激化により、製品の導入から撤退までの成長パターンであるプロダクトライフサイクルは短くなっています。
たとえば、スマートフォンは電話としての通話機能だけではなく、データ通信機能やカメラ、ソフトウェアなど多種多様な技術が1台に詰まっています。また、これらの機能がモジュール化され製品への組み込み自体が容易となり、新興国企業との競争も発生しています。高度かつ様々な方向性の技術に対応し、イノベーションを生み出すためには、組織間や業界間の壁をなくした連携が重要です。
イノベーションは「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」に分類することができます。持続的イノベーションとは、既存市場において、顧客の求める価値を向上させることで起こすイノベーションです。一方、破壊的イノベーションは、既存の製品・サービスの価値を低下させ、新しい市場に新しい価値を提案するイノベーションを指します。
企業は持続的イノベーションだけではなく、クロスインダストリーで他業界の知識・経験を取り入れた破壊的イノベーションに取り組める可能性が高くなります。新たなイノベーションの機会創出をするためにもクロスインダストリーが欠かせません。
クロスインダストリーの事例
続いて、クロスインダストリーを推進する企業の事例を紹介します。
富士通
富士通では「Fujitsu Uvance」という新たな取り組みを掲げています。2030年の社会のあるべき姿を実現するために、世界が抱える社会課題をクロスインダストリーにより解決することを目的としています。。持続可能な社会を実現するために、富士通が重視するテーマは以下の3つです。
・地球環境問題の解決
・デジタル社会の発展
・人々のウェルビーイングの向上
富士通では、他業種のサービスやノウハウをつなげるクロスインダストリービジネスを確立するプラットフォームを実現するために、コンテストを開催しました。「FUJITSU Cross Industry API Contest Supported by Finplex」と呼ばれるコンテストでは、業界や業種の垣根を越えたビジネスアイデアを広く募集。優れたアイデアを事業化していく取り組みを推進しています。
アクセンチュア
以前までのアクセンチュアでは、事業本部ごとにインダストリーコンサルタントが独立して配置されていました。そのため、他業界のコンサルタントチームと連携するのは一部のプロジェクトに限定されていました。現在、組織体制の再編が行われ、各業界でチームが組織されているものの、すべてのチームが同じグループ内に配置されています。そのため、異なる業界のコンサルタントが連携し、行動を共にしてプロジェクトを進めていく機会が増えています。
アクセンチュアはクロスインダストリーにより、「MarCoPay」という船員向け電子通貨プラットフォームの整備を実現しました。船員の利便性向上と船の安全運航強化を目的に、電子通貨による船上での給与支払いや、決済のキャッシュレス化を推進しています。
NEC
NECでは、全社横断の組織「クロスインダストリービジネスユニット」を設立しています。Society 5.0の実現に向けた官民連携や異業種連携による新事業開発が、迅速に進められるようになり、他業種で連携できる環境が柔軟な対応を実現させています。
NECは、2017年10月に設立された「スマートシティたかまつ推進協議会」に設立当初から参画しています。「スマートシティたかまつ推進協議会」とは、高松市と6つの企業・団体が連携し、持続的に成長できる都市を実現するための「スマートシティたかまつ」を推進するための取り組みです。NECは事務局の企画や運営の支援を主体的に行っています。また、世界No.1の顔認証技術を活用した「Fast Travel」の実現に向けた取り組みなども推進しています。Fast Travelとは、ストレスフリーな旅行環境を目指した旅客手続きの自動化プロジェクトです。
クロスインダストリーの推進に向けて
クロスインダストリーは、「オープンイノベーション」という概念の下にあります。オープンイノベーションとは、組織内外の資源を駆使することで組織内のイノベーションを促し、そのイノベーションを組織外にも展開するという考え方です。クロスインダストリーを含めた対外的な交流を手探りで始めることは難しいでしょう。
京セラでは、そんなクロスインダストリーの一助となる、京セラの社内外の技術やアイデアを融合させたオープンイノベーションについての情報を発信しています。また、京セラみなとみらいリサーチセンターでは、様々なステークホルダーが交流・触発・協力しあいながら、新たなクロスインダストリーを促進する取り組みを行っています。興味のある方はぜひご参加ください。