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京セラCVCの最前線、『完全自動運転とモビリティの未来』

京セラは、継続的に新規事業を創出する体制を強化するため、日米で総額1億米ドルのコーポレート・ベンチャー・キャピタル( CVC )ファンド、「京セラベンチャー・イノベーションファンド 1号(KVIF-I )」(日本)、ならびに「Kyocera Venture Fund-I LP (KVF-I)」(米国)を組成しました。KVIF-I の出資案件1号となるスタートアップ企業、Turing 株式会社(以下、Turing )と、京セラ研究開発本部へのインタビューを通じて、CVC の取り組みに迫ります。

CVC とは?(コーポレート・ベンチャー・キャピタルファンド)

CVCとは、事業会社が戦略的目的で投資を行い、スタートアップとの協業を通じて新規事業の創出を目指すベンチャーキャピタルファンドです。特に、先進的な技術や事業展開を行っているスタートアップに対し、資金提供だけでなく、共に成長するための支援を行います。

KVIF-Iは、京セラとグローバル・ブレイン株式会社が2024年4月に設立したCVCファンドです。環境・エネルギー、情報通信、医療・ヘルスケア、モビリティ、材料技術、AI 含むソフトウェア、航空・宇宙・防衛、半導体、核融合領域などの分野で、日本やアジアのアーリーステージ企業に投資し、スタートアップの支援を強化します。



目次


    両社だからこそ見える、協働の可能性

    山本 Turing 株式会社は完全自動運転の実現を目指して、3 年前に立ち上がった会社です。完全自動運転ということで、ハンドルがない車を作ることを目標にしています。実現に向け、現在は AI を用いた巨大なニューラルネットワークによってカメラから直接ハンドルを操作する「end- to - end( E2E )」という方法論を考えています。

    京セラさんは、さまざまなセンサの開発を行っていると伺っています。私たちはカメラと AI の組み合わせで自動運転を実現しようとしているのですが、特に現在の AI は、どんな入力でも受け取れるマルチモーダルになっているので、例えば LiDAR などのセンサにも興味を持っています。


    小林 京セラでは、「 trota 」という自動運転バスをはじめ、自動運転技術や ADAS(先進運転支援システム)の開発を進めています。自動運転においては、Turing さんとは異なり、センサやカメラなどから得た複数の情報を組み合わせて、ルールベースで取り組んでいます。ステレオカメラや周辺検知カメラ、ミリ波レーダー、LiDAR といったカメラ・センサに加えて、ミリ波アンテナなども自社で開発しており、これまで京セラが培ってきた光学や通信の技術を組み合わせることで、独創的なセンシング技術を具現化してきました。

    永元 Turing さんはカメラで情報を取得するというのが大前提だと思いますが、見えないものや死角からの情報は、カメラだけでは捉えきれないところもこれから出てくると感じています。京セラの持つカメラやセンサなどを組み合わせて、完全自動運転の実現に共に挑戦できればと思っています。

    京セラ株式会社 小林(左)と永元(右)
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    皆さん「ラストワンマイル」という言葉をご存じですか?通信や物流、交通など様々な分野で使われるこの言葉。
    それぞれの最終拠点からエンドユーザーにサービスやモノが届くまでの最後のもうちょっとの距離を言います。いまや様々なものが自宅でサービスを受けたり、モノが受け取れたりする世の中でこの最後の「もうちょっと」が足かせになっています。人間の移動における「もうちょっと」を解決するために様々な手段が生まれていますが、そのうちの一つがこの自動運転バスです。


    田中 そういったセンサなどの先進技術への興味は私も持っており、中長期的に協働の可能性を探っていきたいです。また足元では、京セラさんの持つテストフィールド(横浜中山事業所)をお借りしていますが、非常に助かっています。

    Turing は、カメラで得た情報をAIが判断し、操作する「 E2E 」で完全自動運転の実現を目指す、まさに先陣を切るポジションにいます。テストフィールドを使う機会を頂いていますので、そこでの試行錯誤の中で得られた景色や気づきなどは京セラさんにフィードバックをし、連携を図ります。


    Turing 株式会社 山本氏(左)と田中氏(右)

    山本 完全自動運転の実現後、量産の段階では、「値段」が一つのカギになると思っています。2029 年頃の量産を目指していますが、ハンドルが取れた車やそれに近しい車が出ても、それに対して数千万も払ってくれるユーザーは少ないでしょう。カメラを選んだ理由の一つには、価格を抑えたいという考えがあるのですが、京セラさんの持つ技術をうまく組み合わせられる可能性はありますか?

    小林 昔から基地局を手掛けている経緯から、電波の技術が多くあり、特にミリ波の技術に強みがあります。電波の技術に AI を組み合わせることで、必要な情報だけを電波の中から取り出し状況を推測することができます。ミリ波はもともと安価な上に、距離や速度も一つの動作で計測可能です。

    山本 距離や速度の計測においては、カメラでは難しい部分があります。相対速度の把握や、精度の高い距離計測では、1~2 %の誤差は普通にありますし、5 %の誤差が出ることもあります。

    小林 距離と速度で環境を3D 計測するセンサを加えたマルチモーダルとしてありうると思います。ミリ波センサなので費用もカメラ相当の低価格で実装できます。また連携としては、飛び出しや路上落下物の検知といった突発的な反応に必要な脊髄反応対策として、カメラ自体(エッジ処理)による緊急回避対応や、遠方小物体認識技術、さらには、ITS(高度道路交通システム)の活用等、連携アイテムは考えられます。

    永元 カメラやセンサの計測基準を自動調整するオートキャリブレーションの技術は、先進研ですでに多くの研究実績があり、その知見も共有できそうです。

    Turing は 2025 年末に東京都内の市街地で 30 分以上の完全自動運転の実現を目指す

    小林 Turing さんは最終的には製品の量産を目指していくかと思いますが、京セラとしてはまずは社会課題解決に自動運転で寄与したいとの思いがあります。現在は、高齢者や地方での交通弱者を救うため、A 地点からB 地点を結ぶシャトルバスの自動化に取り組んでおり、これは自動配送ロボットやシニアカーなどにもつながると考えています。Turing さんは一般の方が使用されるオーナーカーなどへの導入を目指されると思いますが、自動運転技術のオーナーカー以外への横展開を一緒にできたらと思います。さらに、AI によるE2E という考え方で言うと、弊社で進めている協働ロボットの制御などに応用できないかと考えています。

    山本 可能性は十分にありますね。その辺りの領域はどんどんと同じ技術になると思います。

    京セラと Turing で実現する未来

    山本 2024 年の今、完全自動運転は人類のグランドチャレンジですが、近い将来実現できると思っています。我々なのか、米国や中国のスタートアップ企業なのかは分かりませんが、2030 年くらいには人類は作り上げていると予想します。我々はそこに追いつかなければなりません。

    永元 完全自動運転の世界が到来する上で、勝ち残るのは99 %ではなく、99・99 %の正確性を実現した会社だと思います。Turing さんは実現できる可能性を秘めた会社だと感じていますし、そこにお互いの強みを生かして共に向かっていきたいです。

    小林 事業に近い、センサと AI による ADAS には京セラが、事業化まで時間が必要な完全自動運転に関しては Turing さんが、それそれ主幹となって技術研究を進め、その上で、マルチモーダル化やキャリブレーションなど、共通の技術を連携しながら、それぞれの描く未来を実現していけるのが理想ですね。

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