THE NEW VALUE FRONTIER
OIA Open Innovation Arena
  1. Home
  2. オープンイノベーションアリーナ
  3. News
  4. より便利な未来を目指して!自動運転バス乗車体験!!

オープンイノベーションアリーナ

より便利な未来を目指して!自動運転バス乗車体験!!

突撃取材!テッちゃんが行く!!

ここまで来た!自動運転バス乗車体験!!

 皆さん、バスって普段使っていますか? 高度成長期に駅周辺では土地が足りず、山を切り開いて造成した住宅地がたくさん作られました。そこで駅から放射状にのびるバス網が住民の足となっていた時代から半世紀、実は、いまや全国の民間バス会社の路線バス事業の7割強(70.3%)が赤字*¹となっています。特にこのコロナ禍でリモートワークが増加し、交通崩壊ともいえる状態に拍車がかかっています。そういった状況に鑑み、経済産業省と国土交通省は路線バス事業の存続のため、産業総合研究所を通じてバス開発コンソーシアム(先進モビリティ株式会社・いすゞ自動車株式会社)に委託という形で将来を見据えた自動運転バスの実証実験を全国で進めています。今まではミニバスと呼ばれる小型バスでの実証が主でしたが、2020年度は事業性の向上を目指し、中型バスの自動運転バスの実証を行っています。
 ココ、横浜では全国でも有数のバス保有台数を誇る「神奈川中央交通株式会社」さんが主体となって実証実験を行っています。京セラはこの実証実験に参画、ステレオカメラやミリ波レーダーを自動運転用の認識センサとして提供し、得られた知見を製品の性能向上に活かすため実証に取り組んでいます。
そこで今回は、
「本当に京セラのセンサが役に立っているのか?」「果たして本当に運転が自動なのか?」「乗り心地は?」
「まさか小さいオッサンが運転してたら怒るで!!」
いろいろと確かめるために「ノリに行って参りました!!」

取材協力:神奈川中央交通株式会社 横浜営業所
     先進モビリティ株式会社

自動運転を支える電子の目、センサシステム

 バスの仕様やそれぞれのセンサの役割については、先進モビリティ株式会社の東海林さん、佐藤さんにご説明頂きました。
 自動運転バスはいすゞ自動車製のERGA mio(エルガ・ミオ)という車両を先進モビリティ株式会社が改造したもので、改造によって
① 信号認識用単眼カメラ
② ディープラーニング物体認識用単眼カメラ
③ LiDAR*²フロント×3台 リア×1台
④ ミリ波レーダーシステム×5台(※京セラ製!)
⑤ ステレオカメラ(※京セラ製!)
がAからEの黄色い四角の中に搭載されています。上の番号は下の拡大写真のそれぞれの番号に対応しています。

①は信号の色を認識
②は物体が何であるか(歩行者か車か、積み荷か?等)を映像から検知
③はバス周囲360度の障害物や物体の検知と測距(遠距離)
④は前方及び側方の障害物や物体の検知と測距(近距離)
⑤は前方の障害物や物体の検知と測距
という役割となっているそうです。また前方3台のLiDARについてはそれぞれのデータを重ねるときにバス中心の1点にあるセンサのように見せるために座標を変換・マッピングすることで検出精度を上げている、とのことでした。360度見渡せるカメラモニターのLiDAR版ってとこかな。
 

東海林さん、佐藤さんによると、それぞれのセンサには検知可能距離や得意不得意があるので、<LiDARと単眼カメラ>、<ステレオカメラ>、<ミリ波レーダー>の3種類のレーダーセンサユニットのそれぞれを独立して動かして総合的に勘案して制御している。つまり一つのユニットが"大丈夫!"と言っても他のユニットが"危険!"と言ったときにきちんと歯止めがかかるように安全のために冗長性*³を持たせているとのことでした。京セラのセンサもその一翼を担い、今回の実証実験で様々なケースの検知データを取得し、システムのブラッシュアップに役立てています!
(写真は先進モビリティ株式会社の東海林さん、佐藤さん)

いざ!実証実験区間へ!!

 実証実験区間は横浜市栄区の丘陵地帯(桂山公園-庄戸-上郷ネオポリス)を廻る約6kmの循環ルートです。どうしてこのエリアを実証実験ルートとして選んだのか、神奈川中央交通株式会社 運輸計画部 自動運転推進課長の小川さんにお聞きしました。

小川さん:
 横浜市の南側のこの地域は横浜市の平均以上に高齢化が進んでいます。丘陵地の丘の上に昭和40年代ぐらいから造成が始まり、すでに50年近く経っている住宅地のため、当時20歳代で家を建てられた方は70歳代になっており、住民の半分が65歳以上というエリアです。今回のルートのそれぞれの起点、桂山公園には大規模スーパーや銀行・クリニックがあります。庄戸地区は約1500世帯の住宅地、そして上郷ネオポリスには郊外型既存戸建て住宅団地再生事業「リブネスタウンプロジェクト」の拠点施設「野七里テラス」が存在します。
 それぞれの起点から港南台駅や大船駅からの縦串のバス路線は存在しているのですが、駅に行くほどではないものの、スーパーや銀行などのちょっとした用事を済ませたいという場合、アップダウンの激しい2kmの道のりを補う横串の交通手段がありません。
 自動運転の実現がこれまでのバス輸送にないきめ細やかな輸送サービスを提供できる可能性を秘めており、その中で地元住民に自動運転とはこういうものだということを感じていただき、またこういう移動手段が生活の支えになりうるのかということを地域の方々と一緒に考えていく必要があると当社では考えています。駅には行けるがこの地域の中で巡回するには車が手放せない。それを補完する手段を探っていきたいと考えております。

テツ:
なるほど。バス会社も地域と共生しながら事業として成立する道を探っていかないといけないわけですね。

 桂山公園近くの転回場を起点にバスはすぐさま自動運転モードになります。
 車内には3つのモニタがあり、現在のバスの操縦モードや前方の信号機の色をカメラが認識している様子、そして各センサの検知状況がわかるようになっています。右の写真右上部がブレーキ状態と車速・エンジン回転数です。左下部は地図と地図上の自車位置を示しています。中央にある信号は前方のカメラで認識した信号の色です。

 起点のバス停でドアの開け閉めをするといよいよ自動運転モードで発車です。
 乗り心地はスムーズ。アクセルやブレーキも自動制御されていますが何の違和感もありません。停留所への停車、発車から通常走行、信号の発進停止についてもとても自然で快適でした。
 運転席を覗いてみると、小さいオッサンではなく、ちゃんと運転手さんが座っています。あくまで緊急時は運転手さんがハンドルを握るのでハンドルには遊びがあり、大きめに動いては戻り…という動作をします。人間が操縦するためにはこんなに遊びが必要なんだなと改めて驚きながらも「おいおい大丈夫か?」というハンドルの動きです。遊びの分、左右にブンブン振れます。はっきり言いましょう。運転手さんエライ!! 持つか持たないかのギリギリのところで腕を保持しています。腕が攣っちゃいそうです。私があの状態なら何度かハンドル掴んじゃいます! でも、運転手さんじっとガマンです。(是非下の動画をご覧ください)
 今回、神奈川中央交通さんはベテランの選りすぐり運転手さん4名でこの実験に臨んでいるそうですが、優秀な運転手さんであるからこそ、この掴まないようにガマンするのが大変そうでした。またおそらくベテラン運転手さんは『バスの停留所に停車』➡『ドア開閉』➡『発車』➡『次バス停のアナウンス(ボタンを押す)』という流れで体に染みついているので自動で運転していると最後の『次バス停のアナウンス(ボタンを押す)』を忘れちゃうことがままありました。
「そこも自動にしてあげて!」と叫びたくなるテッちゃんでした。

真に安全な自動運転を目指して!

そのほかにも神奈川中央交通さんが自動運転バスの導入を進める理由について、先ほど話をお伺いした小川さんからお話が聞けました。

小川さん:
 もう一つの課題としては運転手の不足、高齢化も進んでいるのです。
テツ:
 えっ! 運転手さんもですか!!
小川さん:
 実は大型2種免許を保有しているコア層は全国平均で65~70歳代になっておりまして、仮に自動運転レベル4まで行かないまでもACC等の運転支援装置などの技術の領域が過渡的にあれば少しEasyドライブになり、高齢ドライバーも自身の能力にあった形で長く業務を続けることが可能になります。あとはバスの運転手は難しいモノ・大変なモノと感じている若年層に対しても、運転操作そのものを軽減すればその分接客や乗客サービスの方に注力できるし、安全の確保に貢献できます。バスのサービスも多様化する方向が見えてきます。
テツ:
 なるほど、乗客も高齢化してきているので乗り降りをきちっと見守れる乗務員なんかも配置できますね。
小川さん:
 現在は技術の開発が主体となり、車が走れるかどうかという状態ですが、これが進化して安定して走れるようになるレベル4においては高度な自動運転実現、完全に無人になった時にはどのように対応していくのかが正に課題になってきます。バス事業者としては自動運転時代のサービス提供のあり方を検討する必要があり、
・常時遠隔モニタリングがいいのか
・アラートが立った時にバスからの映像を遠隔で見るのがいいのか
 今は事故が起こった時だけ運行管理者が現場に行くが、警察や救急等への連絡と言った初動対応は運転士がやっている。そこを自社に仕組みを作るのか、外部のベンダーと連携してやるのか、そういったところの答えはまだありません。今後はそういった課題をバス事業者としてどういった枠組みで解決していくかを考えていくつもりです。
テツ:
 なるほど。単に自動でバスが動いているだけで喜んでいてはいけませんね。技術的な課題だけでなく、様々な仕組みを作っていかないと進められないということですね。わかりました。有難うございました。

今回の自動運転バス取材を通じて、お聞きした様々な問題について一つ一つ解決していかないと、今後バスという乗物自体の存続が問われることになるんだなあと感じました。また想定される課題をどのように解決していくのかは決して技術だけの問題ではなく、様々なプレーヤーとともに協力して解決していく必要があるとバス会社さんも認識されているということを感じました。今回のバス実証実験では将来の完全無人運転の実現を見据えて、無人時の事故の場合の対処や運賃収受の方法なども検証しています。神奈川中央交通本社では遠隔から車内外の監視が出来るようにしたり、乗客入口と出口に設置したカメラで、乗客を識別して自動的に運賃を計算する仕組みも試験導入したりしています。また、車内のセンサで今どこに何人乗っているかわかるようにしたりする仕掛けも搭載されています。将来、地方のバスという乗物が消えてしまわないように技術的進化によって便利で豊かな社会を目指す取り組みに注目したいものです。

 尚、本実証実験は2021年2月9日から2021年3月5日まで、上記の区間で平日のみ17日間 9:30~16:30までの時間で1日6本(お昼12時台は無し)で一般の乗降客も載せて運行しています。緊急事態宣言下で不要不急の外出はできる限り控えねばならない時期でありますが、もし機会があれば体験ください。
(緊急事態宣言中は一般乗降客を乗せた運航は中止となりました)

(取材・文:リレーション推進課 大崎哲広)

*¹…令和元年度乗合バス事業の収支状況について(国土交通省 R2.11.17)
*²…LiDAR: Light Detection and Ranging (光検出と測距):レーザー光などを放射し、その反射光をセンシングするまでの時間を測定することで反射体までの距離を測定するセンサ
*³…冗長性:必要最低限に加えて余分や重複がある状態またはその余剰の多さ