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その需給管理、もっとスマートにできるかもしれません。電力事業の未来を支えるAEMS

目次

    AEMS(エリア・エネルギー・マネジメント・システム)を必要とする背景

    日本は2050年のカーボンニュートラル実現を目指し、脱炭素社会の構築に向けた取り組みを本格化させています。その中でも、地域における再生可能エネルギー(以下、再エネとします)の導入と活用が、今後ますます重要になると考えられています。

    特に東日本大震災以降、再エネの導入が加速しており、地域で生産された再エネを地域で消費する「地産地消」の考え方が広がっています。こうした流れの中で、地域新電力*¹をはじめとする小売電気事業者は、地域の再エネ電源を活用した持続可能な電力供給に取り組んでいます。

    *¹…地域新電力とは?
    地域新電力とは地方自治体や地域に根差した企業が中心となり電力事業を中核として地域エネルギーの地産地消、地域の課題解決・活性化等を目指して設立された小売電気事業者。地域に作られる再エネ電源の活用の観点で、地域新電力の役割は大きく注目を集めている。


    しかし小売電気事業は、制度面・市場構造・運用上の複雑さから極めて高いリスクを伴う事業です。電力需要と供給のバランスを正確に見極める精緻な予測をはじめ、電力市場価格予測に応じた的確な対応、さらには天候や需給状況の変化に応じて行うリアルタイムな調整など、非常に高度で複雑な業務が不可欠となります。加えて、限られた人員や知見の中でこれらの業務を支えなければならず、結果として事業運営そのものが不安定になりかねません。こうした構造的な課題は、地域に根差した持続可能な電力事業の継続を難しくしています。

    京セラは、このような課題を解消し、安定的な電力供給事業の継続を支援するために、AEMS(エリア・エネルギー・マネジメント・システム)を開発しました。AEMS需給管理システムは、需給管理の高度化と自動化を通じて業務負荷を軽減するとともに、事業リスクの可視化・低減を図り、再エネ電源を活用した脱炭素化の実現を後押しします。

    京セラのAEMS需給管理システムの機能と特徴

    京セラのAEMS需給管理システムは、小売電気事業者の基幹業務である需給管理を支援するシステムであり、以下のような特徴を備えています。

    需給管理業務の自動化

    小売電気事業者は、需要や供給量のバランスを調整して需要・調達・販売計画を作成し、送配電網管理を統括する電力広域的運営推進機関(OCCTO)に提出する義務があります。この中で例えば、需要予測は過去実績等様々な要素を考慮に入れ、需給管理担当者の経験と勘に頼って計画を策定する必要がありました。

    AEMS需給管理システムでは、これらの計画策定を自動化することにより、属人的な作業が不要となり、予測業務の一貫性確保を可能としました。また、従来は手作業で多くの時間を費やしていた計画策定・提出等の業務が短縮されるため、需給管理担当者は新たな取り組みや改善策に注力できるようになります。結果として、単なる効率化にとどまらず、戦略的な対応にも時間配分が可能になり、小売電気事業者の業務全体の質の向上につながります。

    図:システムの概略フロー

    AIを活用した高精度な予測

    需給管理業務では、電力需要の予測をはじめ、過不足量の売買時に必要な市場価格予測や、需給のズレによって発生するインバランス料金(調整費用)の予測など、複雑な要素を適切に予測しながら電力調達をする必要があります。これらを手動で行うことは時間と労力を要し、予測精度にも限界がありました。

    AEMS需給管理システムでは、過去の実績データや気象予報、さらにエリア全体の電力需給ひっ迫情報といった多面的な要素を解析し、AIによる精緻な予測を実現しています。AIの強みは、これらの膨大なデータを瞬時に分析し、予測ロジックを日々継続的に学習・更新することで、常に最適な予測を提供する点にあります。このダイナミックな予測能力により、市場動向に素早く対応できるため、正確な計画策定による調達コストの最適化やインバランスの最小化が可能になります。結果として、AIによる予測が、従来の経験則に頼る方法に比べて、コスト削減や業務の効率化に大きく貢献できます。

    図:AEMSによる予測

    計画・実績の可視化

    AEMS需給管理システムでは、需要調達計画や電力実績などのデータは単なる数値ではなく、グラフを用いた視覚的な確認も可能です。これにより、需給管理担当者は一目で需給バランスや実績の傾向を把握でき、より直感的に状況を理解することが可能です。さらに、販売電力単価等の情報を事前に入力しておくことで、日々の収支概算もリアルタイムで確認することができます。

    このように、計画や実績データ等の可視化により、小売電気事業者の業務の透明性が大きく向上します。これらのデータを基にした業務の分析や改善活動をすることで、効率面や戦略面での事業見直しが可能となります。また、可視化された情報は、データ駆動型の意思決定を促進する重要なツールとして利活用できます。

    図:AEMSの収支結果確認画面(例)

    オプション活用

    地域の再エネの活用方法は、通常の小売供給にとどまらず、自社保有の発電電力を離れた場所へ託送する自己託送やマイクログリッド、VPP(仮想発電所)の利用など、多岐にわたります。これにより、各地域や事業者のニーズに応じた柔軟な電力需給の実現が可能になります。実際に、京セラのシステムは過去の実証経験を基に、各地域や事業者の状況に最適なオプションを提案できるため、小売電気事業者は自社の電力利用方法やコスト効率を最適化できる選択肢を得ることができます。



    青森県民エナジー様の事例:地域再エネ活用の実際

    青森県民エナジー 外部リンク 様は、これまで他の小売電気事業者とグループを組み、需給管理や電力調達を一括で行うサービス(バランシンググループ)に参加していました。しかし、地域の再エネを積極的に活用する方針に転換し、バランシンググループから独立し、自社で需給管理・電力調達を行う体制に踏み切りました。

    ただし、自社での運用に対しては、スキル不足や人材不足が懸念されていました。そこで、京セラのAEMS需給管理システムを導入することにより、運用にかかる手間を大幅に削減できることや、京セラの充実したサポート体制に大きな魅力を感じていただき、安心して新体制への移行を進めることができました。


    図:青森県民エナジー様での需給管理システム画面

    上の図は実際に青森県民エナジー様で使用しているAEMS需給管理システムの需給管理画面です。画面の左には自動進行状況が表示され、右側では閲覧時点での需給予実差異が確認できます。AEMS需給管理システムを導入することにより、青森県民エナジー様は専任担当者を配置することなく、需給管理の一連の業務(需要予測・計画作成・提出など)を自動化できるようになりました。

    さらに、通常の需給管理業務に加えて、青森県民エナジー様が取り組んでいるオンサイトPPA*²を通じて導入した太陽光発電設備により発生する余剰電力の集約・供給についても、京セラがサポートしています。再エネ電力活用に関する技術的な課題についても様々な相談をいただいており、青森県民エナジー様からは「安心して任せられる」との声をいただいております。総合的なエネルギーパートナーとして、京セラはこれからもエネルギー管理の最適化を支援し続けていきます。

    *²...オンサイトPPAとは?

    事業者が電気を使う需要家の建物付近(太陽光発電であれば屋根等)に発電設備を設置し、発電した電気を建物に直接供給・販売する仕組み。需要家は初期投資を行わず実質的に設備導入をできるため、再エネ電源の導入手法の一つとして広く普及している。



    機能拡張:発電側の予測・計画管理へ

    AEMSは市場ニーズに合わせ機能拡張を進めていくことを予定しており、現在発電用の予測・計画管理機能への拡張を進めております。

    再エネ電力は「使う側」だけでなく、「作る側」にも、計画性が求められています。特に太陽光発電を始めとする自然変動電源の普及拡大を牽引してきたFIT(フィード・イン・タリフ)制度*³においては、変動する発電出力の予測等は求められませんでした。しかし、再生可能エネルギーの導入増加が進み、FITの再エネ賦課金の負担増や、送配電網の安定を保つための発電抑制、夕方に太陽光発電量が低下することに伴う急激な供給電力不足等、課題が発生しています。今後は、FIP(フィード・イン・プレミアム)制度*⁴のように、再エネ発電も通常の発電所と同じように発電電力の計画性が求められる事となり、出力の変動の予測と需要に合わせた計画をどのように立てていくかが大きな課題となります。

    こうした背景から、AEMSでは、太陽光発電の出力を自動で予測し、それに基づいて電力の計画を作成・提出できる機能の拡充を予定しています。発電所のオーナーや再エネアグリゲーターなど、供給側の立場にある事業者が、日々の業務をよりスムーズに行えることを目指しています。また、蓄電池の併設された発電所においては、電力を一時的に蓄え、市場価格や時間帯に合わせて活用するための、蓄電池の制御機能も検討されています。これは、FIP制度の活用にもつながり、発電の価値を高める手段の一つになります。

    *³...FIT制度とは?

    再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定期間、発電した時間に関わらず一定価格で買い取ることを国が約束する制度のこと。発電事業者にとっては一定価格での販売が担保されているため事業計画が立てやすく、再エネ電源の普及促進につながった。

    *⁴...FIP制度とは?

    再生可能エネルギーで発電した電気を卸市場などで売電したときに、その売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せする制度。FIT制度と異なり最終的な売り上げが変動するため、需要と供給のバランスなど電力市場の状況を踏まえた発電を求められる。


    また、京セラと東京大学は共同研究スキームである社会連携講座「カーボンニュートラル実現に資する革新的なエネルギーデバイスの開発とエネルギーシステムの設計・実装に関する研究」を実施しています。この社会連携講座において、地域新電力の事業継続性・安定性を目指した電源調達ポートフォリオのあり方や、予測アルゴリズムの精度向上、オンサイト・オフサイトでの再エネ電源・蓄電池の最適運用などを共同研究しています。これら共同研究の成果もAEMSを通じて社会実装を目指していく計画です。

    参考情報:

    東京大学と京セラが社会連携講座を開設


    図:再エネアグリゲーター対応機能 実装後のシステムイメージ

    まとめ:AEMSが支えるエネルギーの未来

    京セラのAEMSは、地域の再エネ活用を支える実務の「中枢」として、脱炭素の実現と事業継続の両立を支援します。持続可能なエネルギーの自立に向け、AEMSにご興味をお持ちいただけましたらぜひご連絡ください。

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