OIA Open Innovation Arena
  1. Home
  2. オープンイノベーションアリーナ
  3. Catalog
  4. 最も危険な場面をそっと影から見守る、ミリ波センシングのアプリケーション

オープンイノベーションアリーナ

最も危険な場面をそっと影から見守る、ミリ波センシングのアプリケーション

安心できる場所が、実は家庭内で一番危険!?

 お風呂って気持ちいいですよね。特に冬の冷え切った体を温めるのにお風呂は天国ですね。しかし、厚生労働省の人口動態統計年報によると、家庭内における不慮の事故のうち、約35%が「不慮の溺死及び溺水」なんです!その原因は温度の違う部屋にいきなり入って起こる「ヒートショック説」や、熱いお風呂に入り続けて起こる「熱中症説」など医学的にも諸説があり、明確に原因究明がされていない現状です。
 また、日本は世界でも類を見ない超高齢社会に突入しており、今後も高齢者のみの世帯数が増加していきます。そうなると入浴事故はますます大きな社会課題になると思われます。その背景から、「医療・ヘルスケア分野や自動車関連分野などの領域で事業を展開している京セラとして、技術の組合せで解決できないか」という観点で、京セラのミリ波レーダー技術を活用した入浴者の状態を非接触でセンシングする技術を開発しています。

何もつけないけど、そっと見守る、ミリ波センシング

 入浴というリラックスを目的とした環境において、医療機器等のセンサを体に装着することはちょっと考えにくいですね。京セラでは自動車関連分野で培ったミリ波レーダー技術を活用した非接触バイタルセンシング技術を開発しています。京セラのバイタルセンシング技術の基本原理は60GHzレーダーを使用して体表面の振動を検出し、得られた振動から心拍に関連する情報を抽出します。この技術により入浴者はセンサの装着や座り方に制限されることなく、通常の入浴においてバイタルセンシングすることが可能となります。また、60GHzレーダー(電波)を使っている特性上、カメラなどは不要で、プライバシーが要求される浴室においても安心してお使いいただけます。

 既に環境(水位や機器の使用状況)をモニターして判別・通知するアプリケーションもありますが、それらのアプリケーションでは事故が起こったことを検知できたとしても、状況としては既に遅く、最終的に入浴者が助かるか助からないかは、入浴者本人の状態と周囲の環境(すぐに救助に入ることができる人間が周りにいるかどうか)が大きく影響します。一方、京セラのアプリケーションでは、心拍情報や入浴時間などを総合的に活用し、過去の情報と比較しながら判別します。それによって状態が大きく悪化する前に、自力で退浴できるうちに退浴通知をすることが可能です。

本当は怖い、お風呂の話

 最初にお話ししました原因究明がされていない現状について、現在我々では「熱中症説」が有力であると考えています。まず、熱が体に入る/出るメカニズムの概要を図1に示します。熱は通常高い(熱い)部分から低い(冷たい)部分に移動します。入浴中においては、お風呂のお湯から体に熱が移り、取り込まれます。体内では体温調整中枢にて判定され、放熱しようと発汗と抹消血管拡張がなされるという流れです。現実的には放熱が追いつかず、徐々に体に熱が蓄積される形となり、体温が上昇することが知られています。ここからは諸説ありますが、我々は放熱機能が限界を迎え、意識障害/体力低下などにより自力で退浴できず、たまたま家族等が見つけた場合は救助されるが、そうでない場合、そのままお亡くなりになるのではないかと考えています。

 しかし上記は仮説で、実際に事故前後のデータを取得した前例がありません。上記のようなケースの場合、解剖を行ったにしても溺れて亡くなったことが分かりますが、なぜ溺れたかが分からないという結果だけが残ります。一方、事故前後のデータ取得を目的とした試験(無理やり長時間入浴し、溺れていただくような試験)は、倫理的観点から実施することはできません。このような倫理的ハードルと事故前後のデータがないことが原因究明をできない限界として存在しています。

 このような限界が存在するため、事故の原因を追跡研究などにより究明し、根本的な対策を行うことが現実的ではありません。そのため、京セラではバイタル情報を取得し、安全にお風呂から上がれる状態で通知し、自らお風呂から上がっていただくことで事故を予防できないかと考えています。つまり、「いつも通り入浴し、いつも通り退浴できる」という価値を提供し、社会課題への対策を提供できないかと研究開発を行っています。

浴室での事故を少しでも減らしたい!

 現状、車載用のセンサとして培ってきた技術をバイタルセンシングに適応させ、入浴中でも測定できるよう技術改良を進めています。開発済みの試験用ミリ波センサ(実験機)を社内の入浴施設に設置し、入浴中に測定可能かどうかの実証試験を実施しています。既に研究員内では、基礎的な入浴時における非接触バイタルセンシング技術を確立してきました。
 しかし、実際のユースケースを想定した際に、入浴方法や入浴時の体勢など、「入浴」という1つの行動においても特性が変化する要因が様々あります。そのため、一般被験者を用いた臨床試験等により、これらの要因を1つ1つ検証して更なる精度向上に努めてまいります。将来的には浴室内だけでなく、本技術を様々な領域向けに展開を図りたいと考えています。

この記事の感想をお聞かせください