非化石証書とは?
仕組みや特徴、種類・価格と活用メリットを解説!【法人】

カーボンニュートラルを達成するための手段として、『非化石証書』を活用できると聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
この記事では『非化石証書』の仕組みや種類、取引価格、利用するメリットなどについて紹介します。 非化石証書の活用を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
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【目次】
非化石証書とは
『非化石証書』とは、「非化石価値」を証書にし、価値を取引できるようにしたものです。
そもそもCO₂排出量が少ない電気には、環境意識の高い企業や家庭から選ばれる価値、すなわち「環境価値」があります。たとえば小売電気事業者が販売した電気の”発電時におけるCO₂排出量”を示す「排出係数」という数値がありますが、これも環境価値を数値化した指標です。
「非化石価値」も上記のような環境価値の一種で、具体的には「非化石電源からつくられた電気であることに起因する価値」といえます。この価値を「証書」という形で見える化し、小売電気事業者や需要家、仲介業者が取引できるようにしたものが『非化石証書』ということです。
参考:資源エネルギー庁|2018年5月から始まる「非化石証書」で、CO2フリーの電気の購入も可能に?
非化石証書が導入された目的と「高度化法」

『非化石証書』を取引する非化石価値取引市場は、元々は「高度化法」の目標達成を後押しするために設立されました。
「高度化法」とは、「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」という法律で、小売電気事業者は「非化石電源比率(化石燃料をつかわない発電所から調達する電気の比率)」を、2030年度までに44%以上にすることが求められています。
多くの方がご存知のとおり、一般的に使われている電気の多くは化石燃料に由来していますが、化石燃料で発電するときに排出されるCO₂は、地球温暖化の原因の一つです。そのため世界的に、徐々に化石燃料から再生可能エネルギー(非化石エネルギー)へとエネルギー源を移行していくことが求められています。
また、小売電気事業者・発電事業者が電気を売買する「卸電力取引所(JEPX)」は、「化石電源」「非化石電源」などの種類を問わず、価格が安いものから取引される仕組みで運営されています。これでは「非化石電源」のみを購入することはできないため、「高度化法」で定められた目標を達成することは難しいでしょう。
このような背景のもと、できるだけ安く電気を調達しつつ、同時に非化石電源比率を高める仕組みとして設立されたのが『非化石証書』を取引する非化石価値取引市場です。
参考:資源エネルギー庁|非化石価値取引市場について(8.44MB)
非化石証書の仕組み

非化石電源によって電気をつくる発電事業者は、『非化石証書』を取引市場でオークションにかけられます。
そして小売電気事業者が『非化石証書』を購入すると、その購入分だけ「販売する電気のCO₂排出量が少なくなった」とみなされるのです。このため『非化石証書』は、高度化法の義務履行に役立ちます。
さらに電気を購入する企業側としても、非化石証書を活用する小売電気事業者から「CO₂排出量が実質ゼロの電力」を調達することで、自社のCO₂排出量削減に役立てることが可能です。
このような環境配慮を目指す企業が大口の需要家となり、『非化石証書』の需要は年々高まっています。この需要家ニーズの高まりを受け、2021年11月には需要家が『非化石証書』を直接購入できる市場として「再エネ価値取引市場」も創設されました。
現在では非化石価値取引市場は「高度化法義務達成市場」と「再エネ価値取引市場」の2つに大別され運用されています。
参考:資源エネルギー庁|「非化石証書」を利用して、自社のCO2削減に役立てる先進企業
資源エネルギー庁|非化石価値取引について(1.10MB)
非化石証書・グリーン電力証書・J-クレジットの違い
再エネ由来の「環境価値」だけを証書として取引する方法は、非化石証書も含めて次の3つが存在しています。
比較項目 | 非化石証書 | グリーン電力証書 | J-クレジット |
購入可能者 | 小売電力事業者 (FIT非化石証書は仲介業者・需要家も購入可) |
電力需要家 | 電力需要家 |
購入方法 | JEPXを通じたオークション (非FIT非化石証書は相対取引も可) |
仲介業者を介した相対取引入札 | 証書の発行事業者から購入 |
環境価値の根拠 | 非化石電源による発電 | 再生可能エネルギーによる発電 | 環境に配慮した活動 |
転売可否 | 不可 | 不可 | 可 |
これらの証書はまとめて「再エネ電力証書」と呼ばれています。
この中でも『非化石証書』は「非化石電源による発電」に特化しており、他の再エネ電力証書と比べて証書の供給量が多いことが特徴です。
参考:資源エネルギー庁|はじめての再エネ活用ガイド(企業向け)(3.39MB)
非化石証書の種類
すでに少し触れていますが、非化石証書には以下の3種類が存在します。
比較項目 | FIT非化石証書(再エネ指定) | 非FIT非化石証書(再エネ指定) | 非FIT非化石証書(指定無し) |
対象電源 | FIT電源 (太陽光・風力・地熱など) |
非FIT再エネ電源 (大型水力・卒FITなど) |
非FIT非化石電源 (原子力など) |
売り手 | 電力広域的運営推進機関 (OCCTO) |
発電事業者 | 発電事業者 |
買い手 | 小売電気事業者 需要家 仲介事業者 |
小売電気事業者 | 小売電気事業者 |
それぞれの特徴について、さらに詳しく見ていきましょう。
FIT非化石証書(再エネ指定)

『再エネ指定のFIT非化石証書』は太陽光・風力・小水力・バイオマス・地熱といった再生可能エネルギーに由来するFIT電源が対象となっています。
『再エネ指定のFIT非化石証書』は小売電気事業者だけではなく、需要家(一般企業)も購入できることが特徴です。カーボンニュートラル達成などを目的に『非化石証書』を直接購入する場合には、「再エネ指定のFIT非化石証書」を取引することになります。
非FIT非化石証書(再エネ指定)
『再エネ指定の非FIT非FIT証書』については、前述の高度化法の義務を達成することに主眼がおかれています。そのため小売電気事業者のみが購入可能です。
また「非FIT」かつ「再エネ指定」ということで、大型水力発電や卒FIT発電所に由来する電力が対象とされていることも特徴です。
非FIT非化石証書(指定無し)
『再エネ指定のない非FIT非化石証書』についても、小売電気事業者のみが購入可能な証書です。再エネに限らない非FITの非化石発電ということで、原子力発電が対象となります。
二酸化炭素を排出しないことによる価値(ゼロエミ価値)は持つものの、再生可能エネルギー由来であることに起因する価値(再エネ価値)はないことは覚えておきましょう。
非化石証書の取引価格

それでは『非化石証書』が実際にどのくらいの価格で取引されているのか見ていきましょう。
まず高度化法の義務達成市場は2022年度後半に需給量がひっ迫し、2022年度第3回・第4回オークションでは約定量が限られたことで、約定価格は最高価格の1.3円/kWhとなりました。
しかし2023年度第1回オークションでは需給バランスが回復し、再エネ指定のない非FIT非化石証書の約定量は過去最高の約113億kWh、約定価格は最低価格の0.6円/kWhとなるなど、受給量・約定価格が大きく変動することもあります(ただし2023年度第2回・第3回・第4回オークションに至るまでは入札量が低下し、約定価格は最低価格の0.6円/kWhを維持しています)。
一方、再エネ価値取引市場の取引は2021年~2023年にかけて増加にあり、2023年度第1回オークションでは最低価格が0.3円/kWhから0.4円/kWhに引き上げられたものの、約定量は過去最高の85億kWhを記録しました。
その後、2023年度第1回から第4回に至るまでは約定量が安定しています。ただし、前年度までの約定量に比べ高水準で推移しており、今後も増えていくと考えられるでしょう(なお、約定加重平均価格は年度を通じて最低価格水準の0.4円/kWhで推移しています)。
参考:資源エネルギー庁|非化石価値取引について(2023年9月11日)(1.10MB)
資源エネルギー庁|非化石価値取引について(2024年6月28日)(404KB)
企業が非化石証書を利用するメリット
企業が『非化石証書』を利用するメリットとしては、次の2つが挙げられます。
- ESG経営・環境経営・脱炭素経営の実践につながる
- RE100などの達成に利用できる
これらのメリットに魅力を感じる方は、ぜひ『非化石証書』を活用してみてください。
ESG経営・環境経営・脱炭素経営の実践につながる

『非化石証書』を主体的に購入したり、『非化石証書』を取引している小売電気事業者から電気を購入したりすることは、二酸化炭素の排出量削減に間接的に貢献しているといえます。つまり「ESG経営・環境経営・脱炭素経営」などの実践につながるということです。
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これら環境に配慮した経営を実践する方法としては、太陽光発電を導入したり、サプライチェーン全体で脱炭素を進めたりする手法も挙げられます。しかしハード面・ソフト面で少なからず負担がかかる手法が多いため、なかなか着手できないという企業も多いのではないでしょうか。
これらの取り組みと比べると、『非化石証書』を活用することはコストと手間が少ない手法だといえます。簡単なことから環境配慮を始めたいという企業にとって、『非化石証書』の活用は非常におすすめです。
RE100の達成に利用できる
『非化石証書』はRE100を達成する手段としても利用できます。RE100(Renewable Energy 100%)とは、事業で使う電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブのことです。
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RE100は、事業規模・業種などいくつか加盟条件が設けられていますが、いずれにせよ「2050年までに100%再エネ化を達成する」という条件を達成する見込みがなければ加盟できません。もちろん自社で太陽光発電所や風力発電所を設置し、そこからの電力で事業に必要な電力をすべて賄うことも考えられますが、設置場所・設置費用を鑑みると難しいという企業も多いでしょう。
そんな中、従来の非化石証書はRE100に対応していなかったものの、『トラッキング付きFIT非化石証書』による再エネ調達がRE100に利用できるようになりました。2021年11月に創設された再エネ価値取引市場で取引される「再エネ指定のFIT非化石証書」については、2021年度から全量トラッキングされています。RE100へ加盟する選択肢が増えたことは、日本企業にとって大きなメリットだといえるでしょう。
なお、RE100に加盟できない中小企業向けの「再エネ100宣言 RE Action」においても、『トラッキング付きFIT非化石証書』による再エネ調達が認められています。
非化石証書を利用するときの注意点

メリットも多い『非化石証書』ですが、活用にあたって注意点も存在します。
まず、取引コストが発生することは知っておきましょう。非化石価値取引に参加するには「非化石価値取引会員」に加入しなければなりませんが、2024年度の年会費は60万円(不課税)となっています。
さらに売買手数料が税抜0.001円/kWhかかり、非化石価値販売証書発行手数料も必要です(2024年度の発行手数料は未公表ですが、2023年度は税抜10,000円/通でした)。
参考:参考:(一社)日本卸電力取引所|非化石価値取引 > 取引概要
また、先述したとおり、非化石証書の取引価格はオークションによって変動します。昨今は最低価格水準の0.4円/kWhで推移していますが、今後はさらに価格上昇する可能性もゼロではありません。 また、「再エネ指定のない非FIT非化石証書」には原子力発電由来の電力も含まれます。もし企業として脱原子力の方針を掲げており、『非化石証書』を活用する電気小売事業者から電気を購入する場合には注意してみてください。
資源エネルギー庁|はじめての再エネ活用ガイド(企業向け)(3.39MB)
非化石証書の活用は環境貢献の一つとして有効
『非化石証書』を活用することは、他の環境貢献活動と比べると取り組みを始めやすいことが特徴です。 環境へ配慮した活動を始めたいものの、何から始めたらいいか分からないという方は、『非化石証書』の活用からスタートしてみてもいいでしょう。
ただし、より環境へ配慮し、なおかつ経済的メリットも大きい取り組みとしては、太陽光発電を導入することがおすすめです。自家消費をメインとすれば、二酸化炭素排出量を削減しつつ電気購入量を減らせます。
京セラのPPA 「産業用電力サービス事業」 を活用すれば、初期費用0円・メンテナンス費用0円で太陽光発電を導入することも可能です。環境へ配慮しつつ経済的メリットも享受したい方は、ぜひ京セラの産業用PPAを活用してみてください。

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