脱炭素とカーボンニュートラルの違いとは?
事業者が取り組むメリットも紹介!【法人】

2020年10月、日本は「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました。
参考:環境省|2050年カーボンニュートラルを巡る国内外の動き(1.63MB)
この目標達成のため、省エネ(省エネルギー)に取り組んだり、再エネ(再生可能エネルギー)活用を目的として太陽光発電の導入を検討したりしている事業者も多いのではないでしょうか。
さて、上記の目標では、『カーボンニュートラル』『脱炭素』と2つの言葉が用いられています。これらは同じ意味で使われることもありますが、厳密には意味合いが少し異なることをご存知でしょうか。
そこで今回は、脱炭素とカーボンニュートラルの違いについて解説します。脱炭素・カーボンニュートラルに事業者が取り組むメリットも紹介するので、ぜひご参考になさってください。
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【目次】
・カーボンニュートラルとは
・脱炭素とカーボンニュートラルの違いを比較
・関連・類似用語の整理
・「カーボンオフセット」は脱炭素とカーボンニュートラルの折衷策
・脱炭素とカーボンニュートラルに企業が取り組むメリット
・脱炭素とカーボンニュートラルの両方に役立つ太陽光発電
脱炭素とは
まずは脱炭素の定義や、脱炭素が注目される背景について見ていきましょう。
脱炭素の定義
実は脱炭素には、明確な定義がありません。 CO₂(二酸化炭素)の排出に関することを示しており、一般的には「 CO₂の排出ゼロを目指すこと」「CO₂の排出量を減らしていくこと」が脱炭素と呼ばれています。
環境省が「気候変動対策(≒脱炭素)の視点を織り込んだ企業経営」を「脱炭素経営」と定義していることを踏まえると、地球温暖化防止のための活動全般≒脱炭素ともいえるでしょう。
参考:環境省|脱炭素経営とは
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脱炭素が注目される背景

脱炭素が注目される背景としては、まず第一に地球温暖化が深刻化している点が挙げられます。
地球温暖化の原因は、CO₂を中心とした温室効果ガスが増えていることです。これにより異常気象が発生しており、海面上昇による沿岸部の浸水リスク・生態系や農業への悪影響なども問題視されています。
そのため地球温暖化の主要因であるCO₂を排出しない(排出を減らす)ことが注目されているのです。
地球温暖化と化石燃料の枯渇リスク
地球温暖化の主要因であるCO₂は、主に化石燃料(石油・石炭など)を燃焼させることで排出されています。産業革命以降、人類はエネルギー源として化石燃料に依存してきたため、地球温暖化が進行してきました。
これは環境保全の観点からも解決すべき課題ですが、今の生活の持続可能性の観点からも問題です。化石燃料は採掘可能量に限界があり、いずれは枯渇してしまいます。そのため人類として、化石燃料以外のエネルギー源を見つける必要があるのです。
このような人類の未来を見据えると、脱炭素は喫緊の課題といえるでしょう。
カーボンニュートラルとは
続いてカーボンニュートラルの定義や、具体的な目標について見ていきましょう。
カーボンニュートラルの定義と目的
カーボンニュートラルは「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること」と定義されています。
「カーボン(炭素)」という名称が用いられているものの、CO₂以外の温室効果ガス全般、たとえばメタンガスなども対象とされていることが特徴です。
温室効果ガスの排出量を減らしつつ、同時に植林・森林管理などによって温室効果ガスを吸収し、排出量の差し引きゼロを目指します。

パリ協定や国際的な目標

- 世界的な平均気温上昇を、工業化以前に比べて2℃より十分低く保つ(2℃目標)
- 世界的な平均気温上昇を、工業化以前に比べて1.5℃に抑える努力を追求する(1.5℃目標)
- 今世紀後半に、温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成する(カーボンニュートラル)
脱炭素とカーボンニュートラルの違いを比較
ここまで紹介した定義・目標をふまえ、脱炭素とカーボンニュートラルの違いを比較してみましょう。
項目 | 脱炭素 | カーボンニュートラル |
定義 |
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対象 |
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目標 |
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主な手段 |
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具体的な活動例 |
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難易度 |
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それぞれの比較項目について、さらに詳しく解説します。
定義
脱炭素は、CO₂の排出を可能な限り「減らす」ことを重視しています(最終的には排出量ゼロを目指します)。
カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出を「全体としてゼロ」にすることです。排出した温室効果ガスと同量を吸収・除去すること、ともいえます。
対象
脱炭素の対象はCO₂です。
一方、カーボンニュートラルは、CO₂だけではなく、メタン・一酸化二窒素・フロンなど温室効果ガス全般を対象としています。
目標

脱炭素の目標は、CO₂排出量の削減、最終的にはCO₂排出量をゼロにすることです。
一方、カーボンニュートラルは温室効果ガスの排出と吸収・除去のバランス(排出量±ゼロ)に着目しており、必ずしも温室効果ガスの排出量をゼロにする必要はありません。
主な手段
脱炭素を達成するためには、再エネを活用し、化石燃料の使用量を削減することが重要です。また、再エネだけで事業活動をまかなえるよう、省エネを促進する必要もあります。
カーボンニュートラルでも再エネ利用・省エネ促進は重要ですが、温室効果ガスの排出量を±ゼロにするために、植林・CCUSなど排出分のオフセットや、カーボンクレジットの活用などに取り組みます。
Carbon dioxideCapture, Utilization and Storage|CCUS CO₂を回収・有効活用・貯留する技術の総称
具体的な活動

脱炭素を目標とする場合、CO₂の排出量を削減するために、火力発電から太陽光発電に切り替えたり電気自動車(EV)を導入したり、化石燃料を使わないような取り組みをします。
一方、カーボンニュートラルを目標とする場合、化石燃料を使わないような取り組みをしつつ、さらに事業で排出したCO₂をカーボンクレジットで相殺したり、事業で排出したCO₂を吸収するための森林を整備したり、より広範な活動が求められる点が特徴です。
難易度
ここまで紹介したポイントをふまえると、CO₂排出量の大幅な削減が必要な脱炭素は、実現難易度が非常に高いといえるでしょう。
一方、カーボンニュートラルも温室効果ガス排出量を減らす必要がありますが、脱炭素ほどの削減は求められません。太陽光発電などを活用して排出量を減らしつつ、植林・非化石証書なども併用すれば、実現できる可能性は高いでしょう。
非化石証書とは?仕組みや特徴、種類・価格と活用メリットを解説!【法人】
関連・類似用語の整理

さて、脱炭素やカーボンニュートラルと関連・類似する用語が数多く存在し、困惑している方もいるのではないでしょうか。
ここからは代表的な用語の意味も整理していきましょう。
低炭素
低炭素は、CO₂排出量を減らす取り組みのことです。排出量ゼロではなく、現実的な削減を目指す段階ともいえます。
ネットゼロ
ネットゼロは、温室効果ガスの排出量を実質ゼロを目指す取り組みのことでカーボンニュートラルと同義です。正味・実質という意味の 「net」 と排出量ゼロの 「zero] を組み合わせた言葉です。
参考:環境省|エコ・マガジンecojin(エコジン)|ネット・ゼロ
ゼロカーボン
ゼロカーボンは、温室効果ガスの排出量を実質ゼロを目指す取り組みのことで、ネットゼロ同様に、カーボンニュートラルと同義です。
カーボンクレジット
カーボンクレジットとは、CO2排出削減の取り組みを行った結果を認証したものです。「カーボン・クレジット市場」で取引きすることができます。日本政府が主導する「J-クレジット」も、カーボンクレジットの一種です。
参考:独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構||カーボンクレジットとは?仕組みや今後の展望について解説!
カーボンオフセット
カーボンオフセットは、カーボンニュートラルを達成するための一手段です。
避けることができない温室効果ガスの排出について、他の場所での排出削減・吸収活動への投資などで埋め合わせをすることをいいます。前述のカーボンクレジットを利用するケースもあります。
参考:環境省|J-クレジット制度及びカーボン・オフセットについて
カーボンネガティブ・カーボンマイナス
カーボンネガティブは、カーボンニュートラル達成後、さらに環境配慮が進んだ状態をカーボンネガティブまたはカーボンマイナスといいます。
具体的には、温室効果ガス排出量よりも、森林・CCUSなどによる吸収量が多い状態のこと指します。
カーボンプライシング
カーボンプライシングは、脱炭素社会の実現にまつわる用語です。
事業者が排出するCO₂に価格をつけることで、排出者の行動を変化させる政治手法のことです。「炭素税」「排出量取引」「非化石証書」などが具体例として挙げられます。
参考:資源エネルギー庁|脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?
脱炭素ドミノ

脱炭素ドミノとは、ある地域で成功した脱炭素化が、他の地域にもドミノのように広がっていくことです。政府としては2030年までに全国でできるだけ多くの脱炭素ドミノを生じさせることで、2050年の脱炭素化、地域によってはカーボンネガティブの達成を目指しています。
参考:環境省|地域の脱炭素に向けた取組について(2.79MB)
GX(グリーン・トランスフォーメーション)
GX(グリーン・トランスフォーメーション)は、エネルギーの安定供給・経済成長・排出削減の同時実現を目指すことです。これらを同時実現させるには、産業構造・経済社会システム全体を大転換させる必要があるため、トランスフォーメーション(変革)という言葉が使われています。
日本でも2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、さまざまな取り組みが行われています。
参考:経済産業省|GX(グリーン・トランスフォーメーション)
RE100
RE100とは「Renewable Energy 100%」、つまり事業で使う電力の100%を再エネで賄うことを目指す、国際的なイニシアティブのことです。気候変動を止めつつ、経済成長も実現する未来を目指しています。
なお、RE100は比較的大きな事業者が参加する枠組みですが、中小事業者向けには「再エネ100宣言 RE Action」という枠組みがあります。
RE100とは?定義や条件、再エネ100%の達成方法を紹介!【法人】
参考:環境省|RE100とは?(837KB)
GHGプロトコル(温室効果ガスプロトコルイニシアチブ)
GHGプロトコルは、国際的に認められた温室効果ガス排出量の算定報告基準です。モノがつくられ廃棄されるまでのサプライチェーンにおける排出量を、次の3つに分類しています。
スコープ1 | 事業者が直接排出する温室効果ガス (製造や燃料燃焼により、排出されるもの) |
スコープ2 | 事業者が間接排出する温室効果ガス (他社から供給された電気や熱などの使用で排出されるもの) |
スコープ3 | 原材料仕入れ・販売後に排出される温室効果ガス (スコープ1、2以外の間接排出。原料調達・輸送・販売した製品の使用・廃棄、従業員の通勤・出張など) |
なお、GHGとはGreenhouse Gas(温室効果ガス)のことです。
参考:資源エネルギー庁|知っておきたいサステナビリティの基礎用語~サプライチェーンの排出量のものさし「スコープ1・2・3」とは
SBT(排出削減目標設定)
SBT(Science Based Targets)は、先述した『パリ協定』が求める⽔準と整合した温室効果ガス排出削減⽬標のことです。
SBTは各事業者が5〜10年先にフォーカスして作成した削減目標であることが特徴で、事業者単体の排出量だけではなく、サプライチェーン全体での排出削減が盛り込まれています。
参考:環境省|SBT 概要資料(844KB)
「カーボンオフセット」は脱炭素とカーボンニュートラルの折衷策
環境への影響を鑑みると脱炭素(CO₂の排出量ゼロ)が望ましいですが、経済活動への影響を鑑みると、すぐに達成することは難しいでしょう。
そのため現実的には、まずカーボンニュートラルを目指すことになります。しかし、たとえCO₂を吸収するとしても、将来的な脱炭素を目指し、可能な限りCO₂排出量を抑えていく必要もあるでしょう。
そこで着目したいのが「カーボンオフセット」です。カーボンオフセットは先述したとおり、日常生活や経済活動で避けられない温室効果ガス排出もできるだけ量を減らし、どうしても排出される温室効果ガスについては削減活動への投資などを通じて埋め合わせる考え方です。カーボンニュートラルを達成した後、ぜひカーボンオフセットを意識してみましょう。
参考:環境省|J-クレジット制度及びカーボン・オフセットについて
脱炭素・カーボンニュートラルに企業が取り組むメリット

- 企業イメージの向上につながる
- ESG投資の対象になる
- SDGsによりビジネスチャンスにつながる
- コスト削減につながる
- BCP対策にもつながる
- 補助金・助成金を活用できる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
企業イメージの向上につながる
昨今は環境への意識が高い消費者・事業者も増えています。そのため脱炭素・カーボンニュートラルに取り組むことで自社を選んでもらいやすくなる、つまり競争優位性を確保できる点は大きなメリットといえるでしょう。
ESG投資の対象になる
ESG投資とは、財務情報だけではなく、「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」に対する企業姿勢も加味して投資先を選定することです。
脱炭素・カーボンニュートラルに取り組んでいる事業者は、環境(E)への姿勢が優れていることになるため、投資対象になりやすいでしょう。
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SDGsによりビジネスチャンスにつながる
SDGsとは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略称です。2015年9月の国連サミットで採択され、17のゴール・169のターゲットから構成されています。企業の経済活動においても、企業ブランドの向上やCSRの観点から、SDGsを意識することが求められています。
脱炭素・カーボンニュートラルはSDGsにも寄与するため、消費者からの注目を集めやすいこともメリットです。環境への意識が高い消費者からのニーズが高まることはもちろん、SDGsを意識する企業のサプライチェーンに取り込んでもらえる可能性もあります。
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コスト削減につながる

脱炭素・カーボンニュートラルを目指す場合、必然的に省エネに取り組みます。
結果として電気代・燃料費などのコスト削減効果が期待できる点も、付随的なメリットといえるでしょう。
BCP対策にもつながる
脱炭素・カーボンニュートラル実現のためには、再エネ活用が不可欠です。再エネにはさまざまな種類がありますが、多くの場合、太陽光発電・蓄電池を取り入れることになります。
そして太陽光発電・蓄電池は環境保全にも役立ちますが、電力需要地で自家発電できるため、災害・停電時にも事業を継続しやすくなる点もメリットといえるでしょう。
補助金・助成金を活用できる
太陽光発電・蓄電池など、脱炭素・カーボンニュートラル実現のために必要な設備を導入する場合、補助金・助成金を活用できる場合があります。
なお、再エネ設備だけではなく、省エネ設備の導入に補助が出ることもありますし、環境配慮型経営を推進するための融資は金利が優遇されることもあります。
脱炭素とカーボンニュートラルの両方に役立つ太陽光発電
脱炭素はCO₂の排出を可能な限り減らすこと、カーボンニュートラルは温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを目指しており、最終的なゴールは若干異なりますが、いずれも環境保全のためには不可欠な取り組みです。
そして、いずれを目指す場合も再エネを活用することで、化石燃料への依存から脱却しなければなりません。再エネにもいくつか種類がありますが、BCP対策や電気代削減にもつながりやすい太陽光発電の活用をご検討ください。 太陽光発電を導入には多額の初期投資が必要になると考えている方もいるかもしれません。しかしPPA(電力購入契約)というスキームを使えば、サービス事業者(PPA事業者)の負担で太陽光発電を電力需要地(工場や倉庫の敷地内)に設置することも可能です。
京セラも産業用PPAサービスを提供しておりますので、初期費用0円で太陽光発電を導入したい方はぜひ一度ご相談ください。

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