国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で温室効果ガス(CO2)の削減目標を定めた「パリ協定」と、気候変動への世界的対応も包含した国連「持続可能な開発目標(SDGs)」の採択などにより、脱炭素化による地球温暖化対策への動きが国家レベルで広がりをみせている。
日本では、パリ協定で決まった中期目標として、2030年度のCO2排出量を、2013年度の水準から26%削減する目標が定められた。世界最大のCO2排出国である中国、そしてEUや途上国も含めた約180カ国でも、それぞれ高い目標値を公表している。また、2019年12月にスペインのマドリードで開催されたCOP25においても、2050年までに二酸化炭素の実質排出ゼロが叫ばれ、各国にはさらなる積極的な取り組みが求められている。
こうした目標を達成するには、太陽光、風力、地熱、バイオマスといった「再生可能エネルギー」(以下、再エネ)の導入量を増やした低排出なエネルギーミックスの推進と、エネルギー効率化の追求を同時に図っていく必要がある。日本政府も2030年のエネルギーミックスでは、徹底した省エネとともに、再エネを22~24%、原子力を20~22%とするなどの電源構成の見通しを示している。
省エネ推進のカギとなる再生可能エネルギーとEMS
そこで、さらなる省エネの推進に欠かせない技術として注目を集めているのが、再エネとエネルギー管理システム(Energy Management System、以下、EMS)である。
太陽光や風力などに代表される再エネは、自然界に存在するエネルギーを活用するため、「枯渇しない」「どこにでも存在する」「CO2を排出しない」といった特長を持つ。
また、EMSは、電気などのエネルギー使用状況を「見える化」することで使用状況を詳細に分析し、削減可能な箇所を見つけ、経費削減にもつなげることができるシステムである。取り組んだ対策の効果測定も行えるため、分析と改善を重ねながら、より効果的な対策を推進していくことができる。
クリーンエネルギーで社会課題を解決
CO2をいかに削減し、持続可能な社会を創っていくのか――。この実現に向け、エネルギー分野において様々な取り組みを行う企業の1つが京セラである。
「当社は創業当初から人類、社会の進歩発展に貢献するという理念をベースに経営活動を行ってきました。私が担当する経営推進本部では、CSR推進室と6つの事業開発部門が一体化しており、常に社会課題の解決がどう事業に結びつくかを判断しながら経営の舵取りを行っています。その中の1つ、エネルギー事業戦略室のミッションは、言うまでもなく地球温暖化防止を実現するための、多様な再生可能エネルギーの技術やソリューションを世に送り出すことなのです」と、同社の濵野 太洋は語る。
京セラは、日本が第一次オイルショックの激震に見舞われた後、国を挙げての省エネ対策が叫ばれていた1975年にいち早く太陽電池の研究・開発をスタート。1979年には初の製品を海外に出荷した。1993年には業界初※1となる住宅用太陽光発電システムを発売。これまで40年もの間、日本はもとより世界各国へ住宅用、産業用太陽光発電システムを展開してきた。
国内では、2009年開始のFIT(固定価格買取制度)によって、太陽光発電システムを設置した家庭の余剰電力が固定価格で買い取られていた。しかし、10年間の買取保証期間が2019年11月より順次満了。そのため、これからのエネルギー市場は、余剰電力を売るのではなく“卒FIT”した家庭が蓄電池を活用して、自家消費することが増えてくるとみられ、エネルギー活用の転換期を迎えている。
「持続可能な社会を実現するために、長期にわたり発電効率が落ちない再エネ基盤として、当社の強みである長期信頼性と高品質の特長を持つ太陽電池は重要な役割を担っています。そして長寿命、高信頼性、低コストが特長のクレイ型蓄電池※2を内蔵した蓄電システムと組み合わせることで、今後、ますます欠かせないものとなっていくでしょう。現在当社では、燃料電池や蓄電池などの開発・製造も積極的に行いながら、再エネの普及に向けて総合的な提案を行っています。中でも注目すべきは持続可能な地域活性化に向けて再エネを主とした自律・分散型社会の実現を支えるモデルを構想している点です」(濵野)。
この構想を実現する上で重要な役割を果たすのがEV(電気自動車)を核としたCASE※3の活用だ。
「国はCO2排出量を減らす切り札として、2030年に新車販売の20~30%、2050年には80%以上をEV/PHVにする目標を掲げています。そのEVを地域内でシェアリングし、動力に再エネの余剰電力を使うことで、カーボンフリーで燃料費ゼロの社会が実現します。またEVは災害時などには自走する分散電源として使えるだけでなく、地域エコノミーの活性化にも役立つ可能性があります。この循環共生圏を実現するための取り組みを、当社では5つのステップに分けて進めています」と、同社の草野 吉雅は説明する。
※1量産品の住宅用太陽電池の最長使用期間。1993年に国内初の住宅用太陽光発電システムを販売開始。現在も稼働中(2018年11月時点)。京セラ調べ
※2クレイ型蓄電池:粘土(クレイ)状の材料を用いて正極と負極を形成することから名付けられた。電解液を用いる一般的なリチウムイオン電池と比べて、高安全性、長寿命、低コストという3つの優位性を兼ね備える
※3CASE:つながるクルマ(Connected car)、自律運転(Autonomous vehicle/driving)、シェアリングエコノミー(Sharing economy)、電動化(Electrification)の頭文字
EVベースの市民サービスが地域循環共生圏の基盤に
京セラが示す5つのステップとは、(1)コミュニティEV導入、(2)緊急時のお助け電源、(3)電力の地産地消で燃料費ゼロ、(4)いつでも どこでも じぶん電気、(5)5G時代の自動ライドシェアを指す(図1)。
図1 京セラが提唱するCASE時代の持続可能な自律・分散型社会の実現ステップ
再エネ余剰電力を使うEVを地域内でシェアリングし、防災にも貢献する燃料費ゼロ社会を実現。エネルギーの地産地消による燃料費ゼロ社会と、5G×EVによる住環境サービスの実現へつなげていく
第1ステップとなるのが、地域社会への「コミュニティEV導入」だ。これは再エネを利用したシェアリングEVカーやコミュニティEVバスを使い、再エネ発電とモビリティ消費との需給一体型ビジネスを構築するための基盤となる。京セラは、その中核となる管理システム「EVシェアリングプラットフォーム」の構築に向け、電気自動車のリーディングカンパニーである中国・比亜迪(BYD)との協業を2019年6月から開始した。
「当社には、再エネの提供技術に加え、余剰電力や蓄電池などの分散電源をIoTのネットワークでつなぎ、あたかも1つの発電所のように遠隔・統合制御するVPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)の実証実験で培ったアグリゲーション技術があります。一方、BYDには日本向けEVバスの提供・開発などで培った電力消費側としての豊富なノウハウがある。互いの知見を生かすことで、電力需給バランスを最適に制御するEVシェアリングプラットフォームの早期開発と事業化を目指していきます」と草野は語る。
第2ステップの「緊急時のお助け電源」では、EVカーやEVバスに蓄積された電力を、自然災害に対する備えだけでなく、ブラックアウト(大規模停電)時の分散型電源としても活用する。どこへでも自走して給電できるEVならではの活用法だ。
第3ステップの「電力の地産地消で燃料費ゼロ」とは、再エネ電力を地域内(オンサイト)でフル活用することで、経済効率を最大化する施策だ。
例えば、企業が自社敷地内の屋根などに太陽光発電設備を設置するオンサイト型PPA(Power Purchase Agreement)の導入に加え、遠隔地で発電した電力を、電力会社の送配電ネットワークを利用して供給するオフサイトの自己託送電力供給の推進も、エネルギーの地産地消を拡大させるための重要な施策となる。
さらに京セラはその延長上で、一般家庭での電気の地産地消を拡大させるべく、第4ステップの「いつでも どこでも じぶん電気」を提唱している。「いつでも どこでも じぶん電気は、地産地消を家庭の太陽光発電まで拡大させるものです。例えば、ご近所や親戚同士で発電した電気をプレゼントしあったり、外出先のEVに自宅で発電した電気を充電したりすることを想定しています。EVバスに電気をチャージすることでポイントをためるなど、地域事業をサポートする仕組みも考えられます。再エネを地域社会でもっと楽しく使っていただけるような技術開発を進めていきます」(草野)。
京セラが考えるのはブロックチェーンで地域エコノミーを実現しようというものだ。
ブロックチェーンは、トランザクション記録を分散管理することで安全性・安定性を高めるもの。そして、この仕組みは、電気価値のやり取りという通常貨幣取引の枠組みを飛び出し、人と人のつながりから生まれる全く新しい価値を創造させ、共生をベースとした地域エコノミーを実現していく。再エネは、単一な電気価値としてではなく、地域エコノミーを活性するための源泉となるのだ。
今後は再エネを地域内、個人間でシェアすることが当たり前の時代となってくる。その共助の精神とモチベーションを高めるビジネスモデルを支えるのが、ブロックチェーン技術によるP2P※4トランザクションだ。
京セラは、世界有数のP2P取引プラットフォーム開発会社である米国LO3 Energy社と、ブロックチェーン技術を活用した共同実証を開始。京セラの横浜中山事業所内に、複数の需要家を模した太陽光発電システムや蓄電池などを備えたVPPの試験環境を整備し、発電で生み出された電気を需要家間で融通させる際のリソース制御精度の向上や、1対1または1対複数での電力取引における利用実績管理の有効性を検証している。
「地域循環共生圏を実現していくためには、個々の家庭や企業、需要家との間の細かな電力取引を、きちんとエビデンスを残しながら管理・制御する仕組みが必要です。当社は国のVPP実証実験にも、需要家とVPPのサービス契約を直接締結してリソース制御を行うリソースアグリゲーターとして参加しています。将来的には、既存システムに低コストでアドオンできるブロックチェーンの利用実績管理技術を活用し、自治体などのSDGs構想を調整役として支援していく役割を果たしていきたいと考えています」(草野)。
そして最後の5ステップ目となるのが「5G時代の自動ライドシェア」である。ここでは5G基盤とEVを活用して、自動運転によるライドシェア(相乗り)サービスを提供するための再エネ供給の仕組みを提案する。再エネを活用した自動ライドシェアにより、最先端医療の遠隔受診や、子供・高齢者の見守りサービスなど、多様な住環境サービスも含め、安全で安心な自律した持続可能な地域社会の実現を目指していく。
※4P2P:Peer to Peer。中央サーバーを用意せず個々の端末(Peer)が互いに信頼し合うことで成立するネットワーク
再エネの主力電源化で脱炭素社会を実現
なぜ、こうした壮大なエコ社会の実現に京セラは主体的に取り組めるのか。
「京セラの創業者、稲盛 和夫は、資源の少ない日本では必ず太陽光エネルギーが必要になる時代が来るという信念で、持続可能な社会に貢献するために、40年以上前に太陽光発電の研究開発を始めました。その言葉が本当になったことをあらためて実感しています。当社は太陽光発電の事業化でも日本のパイオニアであり、蓄電池や燃料電池(SOFC)、EMSやIoTネットワーク・デバイスなどの開発も含め、長年再エネの普及に関わってきました。京セラ全体の経営リソースを活用してエネルギー事業の領域を広げ、脱炭素社会の実現に向けて貢献していきたいと考えます」と濵野は語る。
石油や石炭などの化石資源を持たない日本では、自然環境を生かした再エネ活用こそが、社会を持続的に発展・維持させていくための原動力となる。
「再エネを自家消費・地産地消のエネルギー源として活用しながら、大型電源としても売電市場で活用できるようにすれば、企業はCSRだけでなく経済合理性の面からも再エネ比重を高めていくでしょう。それは結果的に国のエネルギーセキュリティの強化にもつながっていきます」(濵野)。今後のエネルギー情勢を考えれば、企業や国、自治体が太陽光に代表される再エネを大量導入し、主力電源化していく流れは、もはや不可逆なものになっていくはずだ。その流れを加速させるため、京セラは太陽電池、燃料電池、蓄電池といった特性の異なる3電池を組み合わせ、EMSによる連携制御で環境性、安定供給、経済性を最大化するための研究開発にも取り組んでいるという。
これからも京セラは、革新的なエネルギー関連技術の開発と、先進的なグローバル企業との協業を積み上げながら、クリーンエネルギーが最大活用される脱炭素社会の実現に取り組んでいく考えだ。
この記事は、日経BPの許可により、2019年12月24日-2020年2月10日まで「日経ビジネス電子版SPECIAL」に掲載された広告から抜粋したものです。
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