業績見通し
課題事業の立て直しによる収益改善を目指す
2025年3月期は、売上は微増ながら大幅な減益という大変厳しい決算となりました。その中でも、グループ全体の減益の約8割を占めたのは、半導体関連部品の有機パッケージ事業と、電子部品の米国子会社であるKYOCERA AVX(以下、KAVX)の事業でした。有機パッケージ事業については、需要が伸長すると当社が想定していた汎用データセンター向け有機パッケージの増産に向けて大規模投資を行いましたが、それに反して、AI向けの需要が大きく伸びたことにより、前期には減損処理を余儀なくされました。多額の投資を決断した当時の判断にも要因があったと考えています。また、KAVXの事業については、欧州の車載市場を中心とした市況の低迷により新工場の稼働率が低下し、それが大きく影響して損失を計上する結果となりました。
今期(2026年3月期)は、この2つの事業を回復基調に乗せることが最優先の課題であると認識しています。有機パッケージ事業は損失を計上したことで減価償却費が減少したことに加え、一部では需要の回復も見られることから、黒字化の目処が立ったと考えています。KAVXについては、昨年から京セラ電子部品事業の日本人エンジニアを海外の生産拠点に派遣し事業の立て直しを進めてきたことで、今年に入り単月で黒字を計上できる状況となってきています。これら両事業とも、今期にブレークイーブンに達することができると考えています。
事業戦略
今期は構造改革実行の年
このように、業績悪化の主要因となった事業の黒字化を重要な課題とし、今期を「事業戦略と資本戦略の両面における構造改革実行の1年」と位置付けています。今期中にすぐ2桁の利益率へ回復するのは難しいと考えていますが、着実な回復に向けて舵を切り、今後1~2年は構造改革により売上が減少しても利益率を重視する方針です。当社が現在展開している事業領域は非常に幅広いため、中には当社がこのまま手掛けていくよりもさらに事業を成長発展していただける相手先に譲渡した方が望ましいと考える事業も一部あります。本年5月に外部公表したように、シリコンダイオード・パワー半導体事業を譲渡する方針を固めました。また、7月には米国での建設産業向け資材および工具のディストリビューターであるサザンカールソンについても譲渡を含む戦略的選択肢の検討を開始し、今期中に売上高規模で2,000億円程度の事業見直しを計画しています。
事業の見直しに伴い売上は減少しますが、その分、まずは利益をしっかり確保できる構造へ改革し、そのうえで、セラミックスの強みを活かせる高収益事業や、戦略的に重要な開発テーマに経営資源を集中投入していきます。具体的に、半導体関連では、半導体製造装置の微細配線にセラミックスのパーツが大量に使われるようになっており、この分野での収益拡大が期待されます。さらに、AI向けパッケージが大型化する中で、大型化による反りを抑制するためのコア(芯)材として使用するセラミック部品や、基板内部に組み込むセラミックコンデンサの開発について、半導体メーカー様からご要望をいただいており、現在、共同開発に取り組んでいるところです。こうした最先端分野において、私たちが得意とする独自技術で貢献していくことが重要だと考えています。
ソリューション関連事業では、社会課題の解決に貢献するビジネスをさらに拡大していく必要があります。最新の事例としては、繊維・アパレル業界が抱える大量排水による水質汚染という社会課題に対して、排水を限りなくゼロに近づけ、サプライチェーンの短縮や廃棄物削減に貢献する捺染インクジェットプリンター「FOREARTH(フォレアス)」を、現在、世界市場に展開しています。また、太陽電池、蓄電池、SOFC(固体酸化物形燃料電池)を組み合わせた新たな電力ビジネスの創出にも注力しており、日本の再生可能エネルギー比率の向上に貢献したいと考えています。
経営改革プロジェクト
全体を俯瞰する経営改革プロジェクトの立ち上げ
今お話ししたような構造改革を着実に進めると同時に、私たちは来期以降のさらなる成長を目指し、収益力強化に向けた改革も進めています。
そのひとつが、研究開発投資の見直しです。私たちはこれまで幅広い事業領域で研究開発を行ってきましたが、一方で開発テーマを広げ過ぎたところがあり、なかなか事業化につながらないものも出てきました。これを踏まえ、全体の研究開発投資を大幅に削減するのではなく、当社の強みを活かせる分野に特化し、リソースを集中して研究開発を進めていく方針です。この4月には、会長の山口や私、取締役3名、社外取締役1名に加え、コンサルティングファームにも参画いただき、「経営改革プロジェクト」を立ち上げました。事業戦略を中心に、企業価値向上に向けた検討を開始しています。当社の、部門別採算制度を通じて育まれた自主独立の精神は、各部門の主体性や競争力を高め、会社全体の成長を牽引してきました。その反面、部門ごとの最適化にとどまる場面があるのも事実です。また、京セラフィロソフィでは「成功するまで諦めない」と説いているため、現在自分が手掛けていることを途中で止めるとは、なかなか言い出しづらい雰囲気があります。しかし、会社全体で見れば、すでに止めた方がよい事業も存在しています。全社を俯瞰して将来の成長に向けて全体最適を図らなければ、これからの時代には対応できないと考え、止めるべきものは止めると決断し、成長戦略を議論するための「経営改革プロジェクト」を発足させました。
当社は2023年5月に、2026年3月期を最終年度とする京セラ初の中期経営計画を策定・発表しましたが、半導体需要がAI向けに急速にシフトしたことで、事業計画からは大きく乖離しています。今期は新たな中期経営計画の発表を検討していましたが、米国の相互関税の問題など、社会情勢があまりにも不透明なため見送ることにしました。今後、状況がもう少し明らかになれば、改めて当社の方針を対外的に発信する必要があると考えています。その際に発表する計画やビジョンは、経営改革プロジェクトでの議論が基盤になると思います。
コーポレート・ガバナンス
監督体制強化に向けた検討開始
企業価値向上に向けた重要課題は、事業戦略の推進だけではありません。コーポレート・ガバナンスの強化も、当社にとって極めて重要なテーマです。
取締役会は、経営の意思決定機能に加え、業務執行の適切性や効率性を監督する役割を担っていますが、現状、会長・社長・最高財務責任者が執行と監督の双方に関与する一方で、セグメント担当取締役の中には執行業務に比重が置かれるケースもあり、監督機能の発揮には工夫が求められます。また、重要案件は取締役会での承認を経る必要があるため、経営スピードとのバランスも課題となり得ます。加えて、社外取締役の皆様からは「取締役会では、個別の業務執行よりも、中長期的なビジョンや経営戦略に関する議論をより一層深めていくべき」との意見も寄せられています。
こうした状況を踏まえ、取締役会が求められる監督機能を十分に果たすとともに、中長期的な経営課題や戦略的方向性についても活発に議論できる場となるよう、構成や運営方法の不断の見直しを行い、透明性・公正性・機動性を兼ね備えたガバナンス体制の強化に取り組んでいく必要があると考えています。また、DX推進の中でサイバーセキュリティの重要性が高まっています。現状、京セラ本体の仕組みは正常に機能していますが、グループ全体としては改善の余地があると考えています。取締役会がグループ全体のサイバーセキュリティを十分に把握できるように努め、今後の体制も強化することが必要であると認識しています。
社員の働きがいと最大活躍
工場現場における社員エンゲージメントと働きがいの強化
次の成長に向けては、社員のエンゲージメント向上も重要なテーマです。社員教育という点では、京セラフィロソフィについてはしっかりと取り組んでおり、専門的な技術者教育にも従来から力を入れてきたため、内容も充実していると考えています。
これからの課題としては、工場で働く社員への教育です。かつては手作業の工程も多く、いわゆる職人気質で、自分の技術にプライドを持って働くことができましたが、自動化の進展により、今後どのような形で教育を行い、どのように社員のモチベーションを高めていくかが非常に重要であり、現在、知恵を絞っているところです。
多くの製造業が工場を子会社化しているのに対し、当社では創業以来、社員一人ひとりをかけがえのないパートナーとして尊重し、全員で会社を運営してきました。そのため、工場も本社と同じ処遇としています。私自身も工場出身であり、現場の社員の思いや熱意、実情をよく理解しています。社員に働きがいを感じてもらうためには、処遇だけでなく、現場が持つ力を最大限に発揮できるフィールドを提供することが、会社の重要な役割だと考えています。現場とマネジメント層が一体となって挑戦し続けることこそが、京セラの強みです。工場に関しては、もうひとつの大きな課題として、労働力の確保が挙げられます。特に日本全体の労働人口が減少する中、工場の働き手の高齢化や、夜勤や交代勤務が若い世代に敬遠されているといった問題も生じています。人手不足の問題を解消しなければ、近い将来、国内での製造が困難になるおそれがあります。この問題を一度に解決することは難しいですが、スマートファクトリー化の重要性は今後ますます高まっていきます。深夜労働の負担が軽減されるだけでなく、スマートファクトリーの運用には専門知識が求められるため、専門教育を受けた社員が自信とプライドを持って働けるようになることも期待されます。2026年に稼働開始を予定している長崎諫早工場はスマートファクトリー化を前提に設計した最初の工場で、当社の未来を切り拓く存在として、私自身も大きな期待を寄せています。
経営哲学の理解と実践
京セラフィロソフィが支える成長の原動力
当社は、ファインセラミック技術をコアとして事業領域を拡大し、売上高2兆円規模のグローバル企業へと成長してきました。なぜここまで成長できたのかというと、技術の蓄積や事業の多角化など、さまざまな要因があったと思いますが、やはりその根底にあったのは「京セラフィロソフィ」だと考えています。例えば、社員一人ひとりが「利他の心」を持ち、「誰にも負けない努力」を重ねてきたことが当社の業績向上につながったのです。この考え方があったからこそ、京セラは社会に受け入れられる技術や製品、サービスを生み出し、成長することができました。京セラフィロソフィが途絶えれば、京セラは京セラでなくなってしまうのです。
今、私たちは京セラフィロソフィを原動力として、京セラらしい次の成長を実現すべき時期を迎えています。創業者の稲盛が大切にし、社員が実践してきた京セラフィロソフィの精神をしっかりと受け継ぎながら、時代にそぐわなくなっている行動部分については現代的に解釈していく必要があります。「利他の心」といった心の在り方については、時代を超えて変わらない部分です。一方、行動を伴う考え方、例えば「誰にも負けない努力をする」という言葉は、かつての大量生産時代には「誰よりも長く働くこと」と同義に受け止められ、そのような解釈がされていたかもしれません。しかし、現代では、いかに「集中して、付加価値を生み出すか」といった解釈へと変えていく必要があるでしょう。
ビジョン
社員の成長と企業の成長が両立するザ・カンパニーを目指す
私も京セラフィロソフィを実践し、その実践の中から多くを学んできました。30歳くらいのときにプロジェクトリーダーを任され、4、5年の間、身体に変調をきたすくらい苦労した経験があります。そのプロジェクトは、周囲の方々に助けていただき、時にはお客様にもご支援いただき、何とか成功に至りました。そのとき、仲間の大切さや地道な努力を積み重ねることなど、京セラフィロソフィが伝えていることを心の底から実感できたように思います。「利他の心」や「他人(ひと)を大切にしなさい」という教えも、普段からそのようなことを心がけていたからこそ、いざというときに助けてもらえたのだと思います。これが京セラフィロソフィでいう「大家族主義」なのかと、体験を通じて腑に落ち、理解が深まることで、より高いレベルで実践できるようになると感じています。
そして、稲盛が常々言っていたのが「人間性を磨きなさい」ということでした。京セラフィロソフィを実践する中で人間性を磨き、周囲から尊敬される社員が多くいる会社にしたいと、稲盛は考えていたのでしょう。先ほど触れた仲間の大切さも、大家族主義も、もととなるのは信頼関係であり、相手を尊重する気持ちです。少なくとも、しっかりと会話ができる関係性が会社全体に必要であり、そうした風通しのよい環境の中で人間形成がきちんとできる会社にしていかなければならないと考えています。
稲盛は、これからの京セラを、社員、技術、業績、そして社格、それぞれが素晴らしい企業はどこかと問われたら、真っ先に京セラの名前があがる企業の中の企業「ザ・カンパニー」にしていってほしいと語っていました。
その姿とは、社員一人ひとりの成長と企業としての成長が両立する会社であり、京セラはその実現に向けて努力し続けなければなりません。
ステークホルダーの皆様へ
企業価値向上のための経営改革を待ったなしで実行していく
先ほどもお話ししたように、当社は「京セラフィロソフィ」を原動力として経営を行ってきました。その歴史の中で、「自己資本の厚い会社が良い会社」とされていた時代が長く続きましたが、現在では「資本効率の高い会社が良い会社」とされる時代へと移り変わっています。このような時代の変化に私たちが十分に対応しきれなかった面もありました。
しかし、資本効率が求められる世の中になったのであれば、それに適合する会社に変わっていかなければならないのは当然のことです。例えば保有するKDDI株式についても、稲盛が第二電電(現:KDDI株式会社)を創業した1984年当時と今とでは、全く事情が違っています。当社よりもはるかに大きな規模となったKDDIの株式を、当社が保有し続ける理由は薄れてきました。そこで、その有効活用を図ろうということになりました。さらに、PBRにしても、いつまでも1倍を割っている状態ではいけません。株価の上昇自体を目的とするのではなく、「稼ぐ力」をしっかりと高めながら結果としてPBRが1倍を超えるような企業価値の向上を目指し、経営改革を一刻も早く実行していく考えです。
そして、その経営改革を進めていくうえで強く思うのは、お客様の困りごとを解決できる企業にならなければ事業を続けていくことはできないということです。高度に情報化され、AIも登場した社会にあって、他社との差別化を図ることが非常に困難な時代になっています。差別化が技術であれ、サービスであれ、私たちはお取引先様と強固なパートナーシップを築き、お客様の課題解決につながる方策を提供していかなければなりません。
さらにいえば、お客様の困りごとにとどまらず、社会の困りごと、社会課題にも目を向け、その解決にも資する会社でありたいと思っています。他人(ひと)の役に立つ仕事をする京セラ、社会に貢献する京セラとして存在感を示していかなければなりません。また、そのような存在となることこそが、社員や、株主・投資家の皆様、お取引先様、地域社会の皆様、すべてのステークホルダーの皆様からの信頼とご期待にお応えする道であると考えています。
経営理念である「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」を真面目に実行し、「京セラがあってよかった」と皆様に思っていただける理想的な企業に少しでも近づけるよう、全社員一丸となって努力してまいりますので、今後ともご支援のほどよろしくお願い申しあげます。
社員一人ひとりの成長と
企業としての成長が両立する会社
京セラはその実現に向けて
努力してまいります。