THE NEW VALUE FRONTIER

トップメッセージ

画像:社会課題の解決につながる新規事業創出と若い人材の力を引き出すことでさらなるチャレンジを続けていきます。代表取締役社長 谷本秀夫

京セラは1959年の創業以来、「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」という経営理念を実現するために、着実に事業を展開してきました。その根幹にあるのは「京セラフィロソフィ」として60年余にわたって培ってきた経営哲学であり、これは全世界約7万5,000名のグループ従業員に浸透し、現在も経営を進めるうえでの私たちの道標となっています。新型コロナウイルス感染症の渦中にあって、事業環境や働き方に大きな変化が起きる中、私たちが今後も経営理念を実現し続けるために、何よりも従来の考え方や慣習にとらわれず、若い人材の力を引き出すことで、さらなるチャレンジを続けていきます。

京セラグループのさらなる成長ポテンシャルを実感できた3年間

 私が社長に就任して3年が経過しますが、就任当初、強く感じたことがあります。それは、創業者の稲盛和夫は「常にチャレンジ精神を持て」と言い続けてきたのですが、この精神を現場から感じることが少なくなっていたということでした。このような状況を打開するためにはどうすれば良いのかと考え、私はそのチャレンジの場をつくることにしました。これが、2018年末に立ち上げた「新規事業アイデアスタートアッププログラム」です。この時には実に800件以上の応募があり、その中から現在、いくつか具体的に事業化を進めているものがあります。このような現場からのアイデアを形にする取り組みを通じて、忘れかけていたチャレンジ精神を喚起しています。多くの若手社員が応募してくれたことで、私たちのチャレンジ精神は失われておらず、京セラはまだまだ成長できるのだということを実感できました。

長期のありたい姿を目指す成長戦略

新たな事業創出に向けて

 私たちは、創業時より社会課題起点で事業を推進してきました。その代表的なものが40年以上におよぶソーラーエネルギー事業です。再生可能エネルギーという言葉が一般的ではない時代から、当社はエネルギー課題を社内に取り込み、研究開発を続けてきています。

 一方で、私たちの経営の根幹を形成する独自の経営システムである「アメーバ経営」は、時代の変化とともに組織の硬直化の要因としての側面も見えてきています。こうした状況のもと、今後も私たちが将来に向けて柔軟に新規事業を開発していくためには、今までにないアプローチが必要になると考えました。それが、社会課題起点での新しい3つのアプローチ手法、「トップダウン」「研究開発の横展開」「ボトムアップ」です。

 トップダウン型によるアプローチは、次世代の発展を担う成長事業の創出こそが、時代の先を見通す経営層の役割だという考えに基づいたもので、ロボティクス開発などはその代表的な事例となります。また、研究開発の横展開については、新技術の創出を研究開発部門が事業を横断的、または統合的に推進する体制を整備しました。これにより、世界初※のクレイ型リチウムイオン蓄電池の開発などの具体的な成果も挙がっています。ボトムアップの取り組みとしては、先に述べた「新規事業アイデアスタートアッププログラム」が挙げられます。これまで、社員3,000人の応募から選抜した3件を新規事業として採用し、食物アレルギープロジェクトなどの事業化を進めています。

 今後の事業成長に関しては、既存事業の拡大として、データセンター向け光通信、半導体メモリ、AI チップなどがかなりのスピードで伸びていくものと考えています。さらに、具体的な新規領域として、5GやADAS(先進運転支援システム)、再生可能エネルギーなどを注力分野として取り組んでいく考えです。

 5Gについては、ローカル5Gをシステムとして製品化する考えです。例えば、工場内にローカル5Gの環境を整えることで、AI とセンサで工場の稼働システムをコントロールすることが可能になります。ローカル5G基地局の開発も進めており、基地局設置工事やAI を手がけるグループ会社を活用するなど、グループのノウハウを活かした取り組みを進めます。

 ADAS の実現に向けては、安全面の観点から今後ますます開発スピードの加速が要求されます。現時点では、車載カメラなどのさまざまなセンサを車体に取り付けて安全性を高める段階ですが、車から感知できる範囲は限られています。

 そのため、例えば信号機の上に車の死角となる場所を監視できるセンサを設置して車に情報を送る路側機など、インフラの部分を手掛けています。この路側機を使った安全性確保に向けた取り組みとして、当社は現在、岩手県の陸前高田市で、東日本旅客鉄道株式会社様(JR東日本)を中心に実施している「バス高速輸送システム(BRT)」の実証実験に協力しています。路側機は通信技術がベースとなっており、長年にわたり通信機器事業を手掛けてきた当社が貢献できる分野です。

 また、私たちが社会課題のひとつとして位置づける再生可能エネルギーの分野にも注力しています。太陽光パネルだけではなく、蓄電池、燃料電池を含めた電力サービス事業を展開し、導入したユーザーに経済的なメリットをもたらすソリューションを提供します。また、バーチャル・パワー・プラント(VPP)の実験などの取り組みを通じて、再生可能エネルギーの地産地消による地域の脱炭素化や、災害時の電力供給に貢献するための電力需給技術の構築を通じて、社会貢献をはかります。

生産性を高め競争力を維持

 現在のように複雑多岐にわたる知見、技術が求められる時代にあっては、例えばIoTではセンサ、通信、データ解析など、幅広い技術を駆使しないと事業としては成立しません。

 また、部門間の連携も取れるよう、研究開発とマーケティング組織に横串を通す体制を整えました。

 部門間の連携により、新たな価値を生み出し、新しい成長ドライバーとしていく考えです。さらに、事業化する段階では事業本部にも横串を通す仕組みと部門を超えた情報共有も必要だと考えています。

 部門間の連携や新領域の技術開発を推進していくためにデジタルトランスフォーメーション(DX)の加速化が必要であり、今期からはデジタルビジネス推進本部を新設し、コーポレート全体で業務効率を高める取り組みを行っています。同時に、モノづくりに関するあらゆるデータを収集・分析して新たな解決を見出すデータサイエンスなどの技術も積極的に導入しています。

 IoT によるデータ収集、AI 活用による分析に加え、マルチクラウドの対応などの基幹ネットワークを再構築することで、新技術を生かしたチャレンジ精神の醸成、全体最適を見据えた部門最適への意識改革をはかります。さらに、IT によるデジタルビジネスの創出としてエネルギーインフラ事業のサービス化や営業現場のデジタル化による顧客・案件情報の共有やオンライン商談の実現にも取り組んでいきます。

 また、研究開発においては、鹿児島国分工場内にあった材料技術の研究開発機能の一部を京都府の「けいはんなリサーチセンター」に移管したほか、横浜市にソフトウェアやシステムの研究を手掛ける研究所「みなとみらいリサーチセンター」を立ち上げています。近年、多様な技術、製品を展開するうえでは、ソフトウェアの重要性が非常に高まってきています。この「みなとみらいリサーチセンター」のミッションは、DXのさらなる推進および研究開発の横展開に加え、その成果をどのようにビジネスに取り込んでいくかにあります。今後、M&Aや業務・資本提携などさまざまな形で外部リソースの活用を進める拠点として育てていく計画です。

M&A・オープンイノベーションの推進

 私たちの今後の成長を持続していくうえで、多様かつ独自性の高い製品を他社に先駆けて開発し続けなければならない難しい時代にあっては、M&Aに限らず、外部企業との業務・資本提携やベンチャーとの共同開発、オープンイノベーションなどの取り組みが必要です。

 M&Aの推進にあたっては、売上高の拡大とともに、採算改善による利益成長を実現しなければなりません。M&Aにより取得した各事業と既存事業とのシナジーをいち早く創出するため、事業戦略、販売・管理体制、システム連携などの経営統合に取り組んでいきます。

 過去のM&Aには、早く大きく貢献したものもあれば、想定よりも時間がかかったものがあったのも事実です。そうした中でも私が重視していることは、対象となる企業に当社の根幹である「京セラフィロソフィ」を理解してもらうということです。これがあれば、長期的に良好な関係を築くことができると考えています。

画像:代表取締役社長 谷本秀夫

新型コロナウイルス感染症の影響

 当社も新型コロナウイルスにより大きな影響を受けています。2021年3月期第1四半期(2020年4月1日から同6月30日まで)では、前年同期比で売上高は17.6%、税引前利益は33.1% のそれぞれ減少となりました。特に、車載関連、プリンター・複合機関連に大きな影響が出ました。

 サプライチェーンの面では、部材調達についてはほとんど影響はありませんでしたが、製品輸送については国際貨物便の減便により、物流費用が高騰しました。生産体制では、米国子会社のAVX 社はロックダウンの影響を受け、一部の製品供給に支障がでました。

 当社はこの間、ネットワーク2万回線を準備し、関東、関西地域のオフィスワーカーの90%の在宅勤務を実現させました。もともと、関東では今年開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックに向けて準備していたため、スムーズに移行できました。また、これまで取り入れていなかったフレックスタイム制度も導入し、お子さんのいるご家庭には特別休暇も付与しました。

 今後もこのウィズコロナの状況は続くと想定され、テレワークなど仕事のあり方が変わっていきます。営業も対面ではなく、より効率的なツールなどを使ったものになるでしょう。DX による変化への対応を加速させていかなければなりません。

コロナ禍など環境変化の中における今後の課題と取り組み

事業展開

 新規事業領域の開拓では、モビリティ、エネルギー分野に加え、新しい分野へのチャレンジを継続し、DX推進による「モノ+サービス+ソフト」を組み合わせた事業を開拓していきます。

 既存事業では、部品関連において電子部品、コンデンサを中心に拡大を目指します。AVX 社を完全子会社化したことで、情報を共有し、両社で事業拡大に注力していきます。

 プリンター・複合機などのドキュメントソリューション事業においては、ソフトウェアと産業用プリンターにシフトしていく考えです。また、通信機器では、携帯電話事業からローカル5GやIoT 関連など、今後はB2Bの分野にシフトしていきます。

グローバル展開

 海外事業では、グローバル環境の変化に対応し、日本、アジア、米国、欧州の4局体制の再構築を進めます。特に中国については、対米経済摩擦で関税の問題が発生していることに対応し、車載カメラはタイに、コピー機はベトナムに生産拠点を移管し、リスク分散を図っています。また、欧州では、ファインセラミック事業において、欧州における生産拠点の確保を目的に、複数のM&Aを実施しました。

人材育成

 当社独自の経営管理手法「アメーバ経営」の活性化も、今後の成長性確保に大きな鍵を握っています。私が入社した当時、成長期には事業部を形成する小集団の「アメーバ」がどんどん形成されており、フラットな立場のアメーバの責任者がたくさん生まれ、その中で若手は成長することができました。それが、低成長になると組織が固定化してピラミッド型になり、かつてほど「アメーバ」が活性化できなくなってきました。そこで、もう少し組織をフラット化して、若手が「アメーバ」のリーダーとして活躍できる土壌を再構築する必要があると考えています。

 また、当社には年齢構成比の問題も存在しています。1980年代の急成長に伴い、現在は50歳代の社員の比率が高く、今後10年でこれらのリーダー層がいなくなることが想定されます。これに対応するため、若い人の早急な引き上げに取り組んでいます。新規事業や組織改革など部門を問わず、若手登用・育成を進めていきます。

 前述の「新規事業アイデアスタートアッププログラム」も、そうした若手育成の取り組みの一つです。このような従来の事業本部の枠にとらわれない新しい場をつくることで、若い人がリーダーとして活躍していける仕組みづくりを、ほかの領域でも推進していきたいと考えています。

環境・社会・ガバナンス

 私たちは、環境・社会・ガバナンス(ESG)にも、誠実に取り組んでいます。2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」は、「京セラフィロソフィ」の実践を通じて人類、社会の進歩発展に貢献するという当社事業ともきわめて親和性の高いものだと認識しています。

 環境については、2030年度に2013年度比でCO2排出量30%削減と、再生可能エネルギーの導入量を2013年度比10倍とする長期環境目標を定め、京セラグループ全体で目標達成に向けた活動を推進しています。また、今後需要が予想される「自己託送」の実証実験を実施しています。この事業モデルの確立を目指すとともに、現在日本で進められている再生可能エネルギーの主力電源化の実現に向けた、安定的かつ適切なエネルギー需給構造の構築と脱炭素社会の形成に寄与していきたいと考えています。

 社会面では、ダイバーシティについても積極的に取り組んでいます。現在、通信技術の進化などによりテレワークやフレックスタイム制度が普及し、柔軟な働き方が可能になりつつあります。当社においても性別、国籍、障がいなど、多様な背景を持つ社員一人ひとりが活躍できる場を提供できるよう、さまざまな側面からより良い環境づくりを進めていく考えです。

 ガバナンスでは、2018年12月、取締役の指名・報酬に関する透明性を高めるため、過半数を社外取締役で構成する任意の指名報酬委員会を設置しました。取締役会も、現在、米国人2名、女性社外取締役1名に加え、執行役員にも女性2名が加わり、多様性は徐々にですが拡大しています。

 また、監査体制においても、海外事業の拡大により海外スタッフが増大する中、グループ内に分散していた内部監査システムを本社に集約することで、ガバナンスレベルの向上に努めています。

ステークホルダーの皆様へ

 長期的な視点による「ありたい姿」として、経営理念にある「全従業員の物心両面の幸福の追求」と「人類、社会の進歩発展に貢献すること」、特に従業員を大切にする会社であること、この文化は決して変えません。「京セラフィロソフィ」は着実に実践していきます。もちろん、世の中には変えてはいけないものと変えるべきものがあります。硬直的なところは変えていく、変える力を持つ会社にならなければなりません。変化を起こし、チャレンジする精神こそが、10年後の私たちのパワーの源であると考えています。

 私たちは、これまで事業を通して便利な生活、社会の実現に取り組んできましたが、これからは社会課題解決に軸足を置いた事業を展開します。再生可能エネルギーや先進的なモビリティなどの一翼を担う技術開発に取り組み、経営理念の実現と企業価値の拡大をはかっていく考えです。そして、投資家をはじめ従業員、お取引先様、地域社会の皆様、すべてのステークホルダーの方々が安心・安全な暮らしを送れるよう力を尽くしていきます。引き続き、皆様のご支援をお願いします。

画像:代表取締役社長 谷本秀夫