トップメッセージ

私たち京セラグループは、60年以上にわたり継承してきた経営哲学である「京セラフィロソフィ」にもとづき、「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」という経営理念を常に胸に抱き、事業の成長と社会の発展に向けて尽力してきました。現在、私たちは地球規模の気候変動や社会経済の変化、地政学的リスクなど、世界規模の大きな変動に直面しています。また、デジタル化の進展やAIの進化による社会や産業構造の高度化に伴い、社会課題の解決に資する事業の創出が求められています。このように大きな環境の変化に対応し、さらなる成長を目指すには、単年の計画だけではなく、設備投資や人的資本への投資を含めた中長期的な計画が必要と考え、2023年5月に中期経営計画を策定し、新たな経営目標を設定しました。この目標達成に向けて成長スピードをさらに加速させるために、独自の経営管理システムである「アメーバ経営」を時代や事業規模の変化に合わせて進化させるとともに、すべての従業員が自分らしくいきいきと活躍できる全員参加の経営を実践していきます。中期経営計画の遂行を通じて、さらなる企業価値の向上と社会課題の解決を目指してまいります。
2023年度の振り返り
時代が加速度的に変化する中、半導体関連ビジネスが数年振りに落ち込みましたが、今後、AI市場が大きく伸びていくことが予想され、その動向を注視していきます。
2023年度を振り返ると、自動車関連市場は受注の改善が見られた一方で、半導体関連や情報通信関連市場が回復には至らなかったことから、コアコンポーネントセグメントおよび電子部品セグメントにおける主要製品の受注減を主因に売上高は減少しました。また、将来的な生産拡大に向けて積極的な設備投資を継続したものの、受注減少に伴う生産設備の稼働率の低下や人件費などの増加が影響し、利益も減少しました。
半導体関連ビジネスが数年振りに落ち込み、非常に苦しい1年となりましたが、いよいよAIが本格的に活用され始めており、今後当社の関連する事業も伸びていくものと期待しています。私たちもAIの最適な活用方法を、現在検討しています。市場もテクノロジーも変化や進歩が目覚ましく、事業環境の変化は加速度的に速くなったと実感しています。今後、メモリなどの製品も含めてAI関連市場が大きく伸びていくと予想されており、私たちもその動向をしっかり注視していかなければなりません。
国際情勢に目を転じると、ウクライナ問題の長期化に加え、中東での紛争も続いており、エネルギー価格上昇の影響が顕著になっています。また、地政学的な問題の一つに米中関係があります。中国で製造したドキュメント機器の関税が上がったため、一部製品の製造拠点をベトナムに移しました。また、車載カメラの製造もタイに移転するなど、リスクを軽減させてきました。さらに、中国向け半導体輸出規制の影響で、中国の経済成長も鈍化したため、機器が売れなくなるといった状況も生まれています。一方で、中国市場でニーズがある機械工具やプリンティングデバイス、ディスプレイなどの部品を中心に、引き続き現地にて事業を展開しています。
経営哲学の理解と実践
経営哲学である「京セラフィロソフィ」の真意を理解し実践するために、時代にあった実行の形を考えていくことが必要です。
私たちは創業以来、「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」という経営理念を実現するため、「人間として何が正しいか」を判断基準とした経営哲学「京セラフィロソフィ」を継承しています。この「京セラフィロソフィ」については社内教育活動などを通じて、知識としては社員に浸透していますが、その真意を理解し、実践できるかが大切であり、難しいところでもあります。
「京セラフィロソフィ」は経営哲学として深く根付いているだけに、これまでの決して変えてはいけないという雰囲気があることも否めません。「人間としていかに生きるべきか」という心の問題を説いている部分は時代が変わっても変える必要はありませんが、例えば「誰にも負けない努力をする」など、仕事に対する具体的な行動に関しては、現状にあわせ、捉え直す必要があると思います。
ビジネスを進めていく上で競争に勝たなければならないという気持ちは不可欠です。ただ、「誰にも負けない努力」により、時間をかければ成果が上がった時代と現在とでは、さまざまな状況が異なります。同じ考え方、やり方をひたすら守り抜くということではなく、むしろいかに集中して短時間で成果を上げるかなど、今の時代にあった解釈で実行の形を紐解いてあげないと誤解を招く恐れがあります。そのバランスをしっかり取り、経営哲学の真意を理解した上で、必要な部分は時代に応じて捉え直し、若い人たちにつないでいきたいと考えています。
社会課題解決型事業の拡大
エネルギー不足などの課題解決に貢献するため、太陽電池、燃料電池、蓄電池の3電池を活用した新たな電力サービスの事業モデル構築を図っています。
近年、技術の進化に伴い、脱炭素社会に向けた対応や、労働人口減少に対する生産現場のスマート化の進展など、さまざまな社会課題の解決に貢献する技術やサービスへのニーズが高まっています。私たちが取り組むべき社会課題の中で、環境対応は人類・社会が直面する最重要課題であり、エネルギー問題は日本では避けて通ることができないため、大義を持って取り組んでいきたいと考えています。現在、脱炭素社会の実現を目指して再生可能エネルギーの普及に努めており、自社拠点への太陽光発電システムの設置導入を進めています。また、地域・社会全体での温室効果ガス排出量削減に向けて、太陽電池、燃料電池、蓄電池の3つの電池を活用した新たな電力サービスの創出に取り組んでいます。
半導体関連では、製品の省エネ化を進めています。世界中で増加しているデータセンターの課題はエネルギー消費の増大です。さらに、今後データセンターにAIが導入されれば、従来比で約10倍のエネルギーが必要になると言われています。私たちは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施中の「グリーンイノベーション基金事業/次世代デジタルインフラの構築」における「次世代グリーンデータセンター技術開発」に参画し、光電集積モジュールによる省エネ化に取り組んでいます。また、車載系のセンサは交通事故や交通渋滞などの軽減に貢献できることから、私たちも車載用カメラに加えて、ミリ波センサの開発を進めています。このミリ波センサは応用範囲が広く、インフラの損傷度合いを調べるセンサとしても活用が期待できます。
また、新規分野では、捺染インクジェットプリンター「FOREARTH」(フォレアス)を開発しました。印刷時に大量な水を使う繊維・アパレル業界では、水質汚染が社会的な課題となっています。「FOREARTH」は、水の使用量を極限まで削減することが可能になることに加え、従来、必要だった大型の前後処理機やスチーマーなどの設備機器も不要になります。このため、エネルギー消費量とCO2排出量も大幅に削減することにも寄与します。今後も社会課題の解決に役立つ革新的な製品・サービスの開発を通じて、持続可能な社会の実現に貢献していきます。私たちはセラミック部品からスタートしましたが、現在ではソリューションも展開し、成長してきています。ソリューションセグメントにおいては、社会課題を解決するという意識をより高く持って研究開発などを進めていかなければならないと考えています。
資源循環については、今は使い捨てを許してもらえるような時代ではなくなってきました。電子部品事業では、コンデンサを製造する際にPETフィルムを多く利用していますが、このフィルムをコピー機のトナーを入れる容器に再生する取り組みを社内で進めています。また、切削工具も希少金属であるタングステンを使用していますが、リサイクルが実行段階に入っており、業界でもその機運は非常に高まってきています。今後、サーキュラーエコノミーについては他社とも連携し、横断的な取り組みを進めていく考えです。
経営基盤の強化
人的資本の強化およびDXを積極的に推進するとともに、重点項目を見極めた投資を徹底することで、強固な経営基盤の構築を目指します。
●多様性の追求と従業員エンゲージメントの向上
私たちは、中期的な経営目標を設定し、その達成に必要な施策を明確化するために、2024年3月期から2026年3月期までの中期経営計画を策定し、遂行しています。この計画にもとづき経営基盤の強化を進めており、人的資本の強化については、採用戦略とともに、働きやすい職場・現場づくりによる従業員エンゲージメント向上の追求に重点的に取り組んでいます。採用戦略に関しては、中期経営計画を実現するために必要な人材を確実に確保していくことに加え、新卒採用と中途採用のバランスを見直すことで、多様性を確保していく考えです。また、会社が認めれば70歳まで働けるという制度に変更しました。これから60歳代の社員にどう活躍してもらうか、リスキリングの機会を提供して今までと違う仕事に挑戦してもらうなどの取り組みを今後検討していく予定です。
働きやすい職場・現場づくりではさまざまな取り組みを進めていますが、その一つとして社内交流の活性化に努めています。コロナ禍で在宅勤務が増えましたが、やはり出社した方が良いという社員も多く、まずは本社にコミュニケーションの場としてカフェテリアを設置しました。業務におけるコミュニケーションを活発化させようという試みで、今では東京青梅工場や鹿児島国分工場など各工場にも開設しています。その結果、コミュニケーションが活性化し、社内の雰囲気が変わり始めています。この成果は、コミュニケーション強化の一環として全社員に対して年に1回実施している「職場の活力診断」という社員意識調査の結果にも表れており、社内の風通しの良さは毎年改善しています。ただし、「いきいき度」の改善はまだ十分ではなく、若い人の中には少し閉塞感があると感じている人もいるようです。また、本社や事業所、営業所では在宅勤務やフレックス制度などの勤務制度を設けていますが、工場においては基本的に出社が必要です。そのため、スマートファクトリーを応用して、夜間の監視が1名あるいは2名で対応可能な仕組みに変更するなどの改革を進めています。工場においてもこのような働き方改革を通じて、誰もが働きやすい環境を整備していかなければなりません。
DEI(Diversity, Equity & Inclusion)の進捗については、京セラ単体では女性の執行役員が2023年度まで2名でしたが、2024年度に3名に増えました。社外取締役も1名から2名に、社外監査役も2名のうち1名が女性となりました。さらに、女性登用の拡大も図っており、女性を含むより多様な考え方を取り入れることを目的とし、女性従業員の割合をさらに引き上げたいと考えています。男性の育児休業取得率も3割超まで増えていますが、2025年度には5割以上へと拡大する目標を立てています。また、グローバルでの多様性については、欧米のグループ会社とも人材交流があり、執行役員や部門の責任者も海外スタッフを登用しています。ただ、現在は当社の取締役に海外の方が就いておらず、取締役会の多様性確保という観点から今後の課題だと認識しています。
●AI活用およびDXの推進
DXの推進については、滋賀野洲工場の蓄電池ラインにおけるスマートファクトリー化を完了しました。今後、新規に建設する工場についてその技術を横展開し、既存工場では取り入れられる部分を導入していく計画です。また、ロボティクス事業部が事業を開始し、その技術をグループ内に展開するなど、工場のDX化を確実に進めていきます。さらに、全社員にスマートフォンを配布しており、効率的な情報共有を実現するなど、DXを加速させる取り組みがスタートしています。コーポレート部門においても生産性の向上や組織の融合も進める考えで、部門それぞれの時間管理や月次採算管理などの業務を整理し、一本化します。AIは、これらの間接部門の方が導入しやすいため、これから一気に活用を進めていきます。
なお、AI市場は今後さらに拡大し、それに伴って半導体関連市場も回復に向かうと予想されます。私たちも、AIを業務で活用していくことになりますし、ロボット化が進む工場ではロボットを扱える人材が必要になります。ここで課題となるのが従来型の業務に就いている社員の働き方です。入社から定年まで同じ仕事ということはあり得ず、今のうちから社内の流動性を高めておく必要があります。
●重点項目を見極めた投資の徹底
設備投資および研究開発は、2023年度の業績低迷に伴い少し先送りし、2024年度下期から改めて実行していきます。研究開発については、全方位ではなく重点項目をしっかり見極めて実施していく考えで、現在、低消費電力で駆動し低炭素社会実現への貢献が期待できる高効率GaNレーザーや、今後日本国内でも社会実装が期待されるミリ波5G通信のさらなる普及に向けたインフラ関連事業などに重点的に経営資源を投入しています。M&Aの戦略については、私たちの事業とシナジー効果が期待できる会社があれば、引き続き積極的に検討していきます。社外との連携については、新たな取り組みとして、オープンイノベーションへの取り組みの一層の加速と、スタートアップの探索支援を強化するため、コーポレート・ベンチャー・キャピタルファンドを組成しました。環境・エネルギー、情報通信、医療・ヘルスケア、モビリティ、材料技術、AIを含むソフトウェア、航空・宇宙・防衛、半導体、核融合と、私たちにとって未来が描け、面白く取り組めそうな領域で、日本・アジア、欧米のスタートアップ企業を中心に投資を進めていく考えです。
コーポレート・ガバナンスの強化
企業価値向上を目指し、取締役会のさらなる多様性の確保や実効性の向上を図っています。
私たちは、コーポレート・ガバナンスの強化として、取締役会のさらなる多様性の確保や実効性の向上に努めるとともに、中長期の事業戦略・資本戦略の議論を進め、企業価値向上を図っています。取締役会の実効性向上については、企業経営の経験者も含んだ社外取締役を交えた活発な議論が交わされ、議論内容にも変化が出ています。以前は設備投資案件などの議題が多く占めましたが、最近は付議する設備投資案件を大きいものに絞り、議論の多くをグループガバナンスや中長期の方向性などにシフトしました。例えば、グローバル監査チームによる海外子会社の監査報告にもとづいて、子会社のガバナンス上の問題などを議論しています。中期経営計画についても、もう一歩先の半導体開発に取り組んではどうかなどの踏み込んだ議論を行っており、私自身、実効性は高まっていると感じています。DEIの箇所でもお話ししたとおり、本年度からもう一人女性の社外取締役が就任したので、新たな視点による独自の提言を期待しています。
また、リスクマネジメント強化の一環として、デジタルビジネス推進本部が中心となってサイバーセキュリティ対策の取り組みを進めています。100社以上にのぼる海外の関連会社と協力会社を含めて、グループネットワーク全体のセキュリティの底上げを目指していかなければならないと考えています。
ステークホルダーの皆様へ
すべてのステークホルダーの皆様との良好な関係を構築し、社員こそ私たちの力の源泉であるという信念のもと、今後も力を尽くします。
私たちは、株主・投資家の皆様、お客様、お取引先様、そして従業員をはじめとする多様なステークホルダーの皆様との対話を深め、今後も良好な関係の構築に力を注いでいきます。
2024年3月、公正取引委員会より発表された、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に係るコスト上昇分の価格転嫁円滑化に関する調査の結果に伴って、当社名が公表されました。これは、お取引先様との取引価格に関するもので、価格改定の要請がなかったお取引先様に対して積極的に価格協議の場を設けていなかったとの指摘であり、しっかり聞き取りをするようにという指導でした。これまでもお取引先様からの値上げ要請にはすべて真摯に対応しており、独占禁止法や下請法に違反するものではありませんが、今後、お取引先様とより一層、積極的なコミュニケーションを図ることで、適正な価格設定を確実に行うとともに、相互信頼にもとづくパートナーシップの構築に注力していきます。また、従業員に対しても、給与を含め待遇の改善に努めていく必要があります。デフレから脱却し、物価上昇が進む中で、お取引先様の価格設定や従業員の待遇も適正化していくという好循環を持続できるよう、適切な体制や仕組みへと変革を進めていく考えです。
株主・投資家の皆様に対しては、利益率が落ちていることが株価の上がらない要因の一つと考えており、今後、より一層の利益率向上への取り組みを進め、株主還元に引き続き努めていきます。また、中期経営計画の目標である売上高2兆5,000億円、税引前利益3,500億円については、もう一度しっかりと見極めた上で、どのような施策で伸ばしていくのかを皆様にご報告したいと思います。
創業者である稲盛和夫が企業の中の企業「ザ・カンパニー」を目指したように、私自身も、京セラグループで働いている人たちが充実感、達成感、やりがいを感じられる会社にしていきたいと思います。社員こそ、私たちの力の源泉であるという信念のもと、今後も力を尽くしていきたいと思いますので、これからも、ぜひ京セラグループにご期待ください。
