気候変動対策 -TCFD提言に基づく情報開示-
金融安定理事会の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)はすべての企業に対し、気候変動シナリオを用いて、気候関連リスク・機会を評価し、事業戦略・リスク管理への反映と開示を求めています。京セラグループはTCFDの提言に賛同し、ガバナンス体制の確立、リスク管理、事業戦略、指標と目標の設定を行い、対策を推進しています。
また、気候変動対策を重要課題と認識し、2018年に2℃水準の長期環境目標を設定しました。2021年には長期環境目標を1.5℃水準に更新し、Scope1,2およびScope1,2,3を2019年度比2030年度46%削減、2050年度にカーボンニュートラルを目指しています。
長期環境目標を達成する為、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入および省エネルギー(以下、省エネ)施策を各拠点で積極的に実行し、様々な地球温暖化防止対策に取り組んでいます。
ガバナンス
京セラグループは、気候変動問題を重要な経営課題として位置付けています。トップマネジメントが出席する「京セラグループサステナビリティ委員会」(2回/年)において、気候変動に関する目標や対策について審議し、決定しています。気候変動対策を含んだサステナビリティ活動について取締役会に報告するとともに、グループの経営幹部が出席する国際経営会議にて共有しています。また、京セラグループサステナビリティ委員会の下部組織として対策を推進する長期環境目標推進タスクフォースを設置し、京セラグループ長期環境目標の達成に向けて取り組んでいます。
リスク管理
京セラグループは、気候変動に関するシナリオ分析を定期的に実施し、リスク及び機会の識別、評価並びに管理を行っています。
リスクマネジメントプロセス
リスク評価手法として、気候変動に関わるリスクと機会をバリューチェーンごとに抽出した上で、「企業・投資家の認識度」と「企業・投資家が考える影響度」の2つの観点からスクリーニングを実施し、重要度の大きい項目を「大」として、3段階で重要度評価を行っています。
●企業・投資家の認識度:気候変動に関する企業評価への他社の回答状況や、気候変動に関わる政策など外部動向の調査結果から評価
●企業・投資家が考える影響度:外部機関による事象の発生確率と発生時のインパクトを用いて評価
分類 | 項目 | 重要度 | リスク(●)と機会( )の概要 | 影響が大きい バリューチェーン |
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移行リスク | 政策 | A | 炭素価格 | 大 |
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製造・開発 |
B | 各国の炭素排出目標 | 大 |
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製造・開発 販売・使用 |
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C | 省エネ政策 | 中 |
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製造・開発 | ||
D | 再エネ等補助金政策 | 大 |
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製造・開発 販売・使用 |
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E | リサイクル規制 | 中 |
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製造・開発 販売・使用 |
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技術 | F | 電子部品・半導体における次世代技術の普及 | 大 |
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製造・開発 販売・使用 |
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G | エネルギー関連事業における次世代技術の普及 | 大 |
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製造・開発 販売・使用 |
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市場・評判 の変化 |
H | 重要商品/製品価格の増減 | 中 |
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原材料調達 | |
I | 電子部品・半導体における消費者の評判変化 | 大 |
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製造・開発 | ||
J | エネルギー関連事業における消費者の評判変化 | 大 |
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製造・開発 | ||
K | 投資家・消費者の評判変化 | 大 |
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全て | ||
物理的リスク | 急性 | L | 降水パターンの変化、平均気温の上昇 | 中 |
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製造・開発 |
慢性 | M | 異常気象の激甚化 | 大 |
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製造・開発 |
戦略
京セラグループでは、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)等による情報に基づき、「1.5℃シナリオ※1」及び「2.6℃シナリオ※2」を用い、2030年の自社の事業の影響及び顧客の業界の変化を把握するとともに、京セラグループの気候変動に関するリスク及び機会を分析しています。特に、当社が展開している再生可能エネルギー関連事業については、脱炭素化の動向が重要であるため、1.5℃シナリオにおける各種エネルギーの普及パターン等を設定し、それぞれのリスク及び機会が与える財務上の影響額を評価・分析しています。また、その分析結果に基づき、2030年度温室効果ガス排出量削減目標の達成、2050年度カーボンニュートラルの実現を目指しています。
- 2100年に世界平均気温が産業革命以前に比べ1.0~1.8℃上昇するシナリオ(IPCC第6次評価報告書:SSP1-1.9)
- 2100年に世界平均気温が産業革命以前に比べ2.1~3.5℃上昇するシナリオ(IPCC第6次評価報告書:SSP2-4.5)
シナリオケース
シナリオ | 概要 |
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1.5℃ |
2100年に産業革命以前に比べ+1.0~1.8℃ |
2.6℃ | 2100年に産業革命以前に比べ+2.1~3.5℃ |
主な参考文献:
RCP8.5、RCP4.5、RCP2.6、IEA ETP 2DS、IEA ETP B2DS、IEA450、IEA NPS、IEA ETP 2017、IEA NZE2050、IEA Sustainable Development Scenario、IEA WEO2022シナリオ、WRI Aqueduct Water Risk Atlas、気候変動を踏まえた治水計画のあり方 提言、など
事業インパクト評価
重要度が大きい項目について事業インパクト評価を実施しています。2.6℃シナリオでは洪水被害の影響が大きく、1.5℃シナリオでは、炭素価格の影響が大きい一方で、再生可能エネルギー・水素関連事業に大きなビジネス機会があると考えます。主な事業インパクト評価結果を示します。なお、財務影響は2023年度からの増減額を算出しています。
分類 | リスク・機会 | 営業利益増減 | 参考資料及び算出方法 | |
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2.6℃ シナリオ |
1.5℃ シナリオ |
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製造・サービス | 炭素価格の上昇 | ▲100億円 | ▲120億円 | IEA, "World Energy Outlook 2023"を参考に、2030年の削減目標を達成した場合を想定 算出方法:自社の将来の排出量×将来の炭素価格 |
エネルギー価格 の上昇 |
▲150億円 | ▲150億円 | IEA, "World Energy Outlook 2023"を参考に、2030年の再エネ導入量目標を達成した場合を想定 算出方法:将来の系統由来の電力使用量x再エネ導入量 (%)×2030年電力単価 |
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自然災害による被害 | ▲30億円 | ▲20億円 | WWF Water Risk Filter、Aqueduct Flood、Global flood depth-damage functionsを参考に、2030年までに洪水リスクの高い国内外の拠点が全て被災するケースを推計 算出方法:地域、業界別拠点被害額×敷地面積x浸水深被害係数 |
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販売・消費 | エネルギー関連事業の拡大 | 0億円 | 65-85億円 (独自シナリオ結果) |
IEA「EV Outlook 2022」、自然エネルギー財団「2030年エネルギーミックスへの提案(第1版)」、WWF「脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ」、経済産業省「エネルギー基本計画」「2030年エネルギー需給の見通し」を参考に推計 算出方法:関連事業売上高×事業利益率×市場拡大率 |
Scope1,2の削減
炭素価格、エネルギー価格の上昇対策
温室効果ガス排出量削減対策を実施するため、2019年度から2030年度を4期に分け、各工場に見える化システムを導入すると共に、生産設備の省エネ強化、再エネ導入を進めています。
第1期 2019~2021年度 |
第2期 2022~2024年度 |
第3期 2025~2027年度 |
第4期 2028~2030年度 |
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再エネ 導入 |
【オンサイト】国内/海外関連会社への太陽光発電設備の設置 |
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【オフサイト】国内太陽光発電設備の設置(自己託送) |
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【オフサイト】国内再エネ電気の需給(PPA) |
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省エネ 推進 |
排熱回収設備の導入
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ユーティリティーのトップランナー設備の導入
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クリーンルームの省エネ設計と最適運用 |
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エネルギーの見える化、生産設備の効率改善 |
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脱石油燃料(天然ガス等への転換)、脱蒸気(電化/水加湿) |
水素・アンモニア活用検討 |
再エネ導入
京セラグループでは国内外の事業所及び工場の敷地内(オンサイト)の建物や駐車場の屋根などに太陽光発電システムを導入することに加えて、2020年度から、敷地外(オフサイト)の土地などに太陽光設備を建設する自己託送制度※1や再エネ電気需給(太陽光発電・風力発電・バイオマス発電など)によるPPA※2を行い、再エネ由来の電力利用の拡大を進めています。
- 自己託送制度:自社拠点などで発電した電力を送配電事業者の送配電網を通じて別の自社拠点に供給する制度
- PPA(Power Purchase Agreement):発電事業者と特定の需要家の間で締結する電力購入契約
【オンサイト】太陽光発電設備の設置導入
【オフサイト】再生可能エネルギーの導入・利用拡大
①PPAによる再エネ電気供給
②自己託送による再エネ電気供給
省エネ推進
CO2排出量削減事例発表会の開催
各製造部門で実施または計画中の省エネの施策の横展開を目的に定期的に開催しています。
【発表事例】脱臭装置のハイブリッド触媒への置き換え
京セラグループでは、生産工程で発生する排ガスについて、大気や臭気による影響を及ぼさないよう、必要箇所に排ガス処理装置を設置しています。従来の排ガス処理装置は、加熱した排ガスを白金触媒へ通過させることで、化学反応により酸化分解し無害な成分へと処理していましたが、新たに低温触媒と白金触媒を組み合わせたハイブリッド触媒へ置き換えを行うことで、燃焼温度を下げることが可能となり、都市ガス使用量2022年度比約60%を削減しています。今後は、ハイブリッド触媒導入の取り組みについて京セラグループ内での展開を検討していきます。
CO2 排出削減量:385(t-CO2e/年)
コンプレッサーの見える化による効率改善事例
工場の生産設備ごとにGHG排出量の見える化を進め、目標値と実績をタイムリーに把握することで、GHG排出量削減の活動につなげています。
重要なユーティリティー設備であるコンプレッサーについては、効率監視による省エネおよび予防保全を図っています。
CO2 排出削減量(見込み):2,460(t-CO2e/年)
Scope3の削減
京セラグループのGHG排出量の内、約83%をScope3が占めております。
また、特にカテゴリー1(購入した製品・サービス)は占有率が高いため、今後はお取引先様との連携を通し、削減活動に取り組んでいきます。
カテゴリー10、13、14は対象外のため算定していません
製品輸送時のCO2削減への取り組み
京セラグループは、全日本空輸(ANA)が推進するプログラム「SAF Flight Initiative」へ参画し、自社の輸送時のCO2削減に加え、将来的なSAFの普及に向けて貢献して参ります。
SAF:バイオマスや廃食油などから精製した航空燃料。従来燃料に比べ、約80%CO2発生量が抑制される。
カーボンフットプリントへの取り組み
製品1つ当りのライフサイクルで排出されるCO2量であるカーボンフットプリントについて、欧州の各種法規制や顧客要求に対応するため、今後社内算定のルール化および展開について、検討を進めます。
自然災害による被害対策
物理リスク対策として、地理的に災害の起こる可能性を把握し、工場ごとに止水板の設置を行うとともに、設備更新時や新設時に浸水深を考慮した位置に設置するなど、最適な対策を実施しています。
エネルギー関連事業の拡大
住宅や企業、大規模な太陽光発電所の余剰電力を買い取り、再エネ電力の需給調整やマッチングを行い、この再エネ電力を自社で活用することで京セラグループ全体の再エネ比率を向上させると同時に、環境経営企業等の外部へも積極的に展開していきます。
指標と目標
京セラグループの長期環境目標は次のとおりです。なお、温室効果ガス排出量の目標は、SBT(Science Based Targets)の認定を取得しています。
- 温室効果ガス排出量(Scope1,2※1)排出削減目標(1.5℃水準):2030年度46%削減(2019年度比)【SBT認定】
- 温室効果ガス排出量(Scope1,2※1,3※2)排出削減目標(1.5℃水準):2030年度46%削減(2019年度比)【SBT認定】
- 再生可能エネルギー導入量:2030年度20倍 (2013年度比)
- カーボンニュートラル:2050年度達成
※1 Scope1: | 燃料使用に伴う直接排出 |
Scope2: | 外部から購入する電力や熱の使用に伴う間接排出 |
※2 Scope3: | Scope1,2以外の間接排出(原料調達、輸送、使用、廃棄、従業員の通勤、出張など) |
一部拠点のデータ集計精度向上に伴いデータを更新しています。