THE NEW VALUE FRONTIER

気候変動シナリオ

金融安定理事会の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)はすべての企業に対し、気候変動シナリオを用いて、気候関連リスク・機会を評価し、事業戦略・リスク管理への反映と開示を求めています。京セラグループはTCFDの提言に賛同し、ガバナンス体制の確立、リスク管理および目標設定を行い、シナリオ分析を実施し、その結果に基づき事業戦略を検討しています。

画像:TCFDロゴ

ガバナンス体制

京セラグループでは、気候変動問題を重要な経営課題の一つとして位置づけています。トップマネジメントが出席する京セラグループCSR委員会(2回/年)において、長期環境目標の決定やその達成に向けた対策などについて審議を行っています。また、京セラグループの国際経営会議(2回/年)にて、方針の共有を行っています。

社会背景

気候変動対策は2005年の京都議定書により国際社会でルールが制定され、2016年のパリ協定により国際的な動きが活発になり、各国が目標の設定を進めました。2020年以降、一部の地域でカーボンニュートラルの目標を設定し始めています。また、SBTイニシアティブも目標水準を2019年10月に改訂しています。昨今では多くの企業が気候変動に対する目標を持ち、1.5℃目標やRE100を宣言する企業も増加しています。また、サプライヤーに対して、1.5℃目標の設定やRE100の宣言を要求する企業も増えてきています。

SBT目標水準 概要 認定時期
2℃水準 基準年の1.23%~2.5%を毎年削減 2019年9月まで
WB2℃水準 基準年の2.5%~4.2%を毎年削減 2019年10月以降
1.5℃水準 基準年の4.2%以上を毎年削減

日本は「2050年カーボンニュートラル」を宣言しています。「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(案)」の概要は以下の通りとなっています。

分野 概要
太陽光

2030年を目途に普及可能な次世代太陽電池の開発を推進。

次世代型地熱発電技術の研究開発を推進。

次世代電力マネジメント産業

住宅を含む省エネ基準の適合義務付け等の規制措置の強化。

デジタル技術と市場機能等の活用により、アグリゲーションビジネスや次世代グリッドの推進・構築。

水素・燃料アンモニア産業

グリーンイノベーション基金を活用し、安価な輸送技術と大量需要の見込める水素発電技術の一体的な実証等の推進。

燃料電池の技術開発により、性能向上と市場拡大を同時に実現。

半導体・情報通信産業

パワー半導体の研究開発支援。

自動車・蓄電池産業

商用車は、小型新車で2030年までに新車販売で電動車20~30%、2040年までに新車販売で電動車・脱炭素燃料車100%。大型車は技術実証・水素普及等を踏まえ2030年までに2040年の電動車の普及目標設定。

蓄電池の大規模投資(100GWh)、EV・FCV等の導入、充電インフラ(15万基)・水素ステーション(1,000基)の整備、サプライチェーン・バリューチェーンの業態転換・事業再構築などを支援。

出所:「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(案)具体化のポイント(概要)(令和3年6月2日 経済産業省)より抜粋 

気候変動が事業に及ぼすインパクト評価

京セラグループでは気候変動リスクを全社的なリスク管理の中に組み込んでいます。リスクと機会を評価する手法として、国際社会の動向、ステークホルダーからの期待などから要求事項を整理し、「ステークホルダーにとっての重要性」ならびに「京セラグループにとっての重要性」を考慮したうえで、インパクトの大きい項目を「大」として、3段階でインパクト評価を行っています。

(評価大、中の項目抜粋)

項目 リスクと機会(リスク● / 機会○) 評価
移行リスク 政策 各国の炭素排出目標/エネルギー政策
  • 各国の目標強化により再生可能エネルギーの需要が増加し、事業の拡大につながる
  • 強化された目標が京セラの目標より厳しい場合、目標に応じて、京セラグループの追加対策が必要になる
炭素税
  • 炭素税が導入された場合、再生可能エネルギーの需要が増加し、事業拡大につながる
  • 炭素税が導入された場合、京セラの製造コストが一時的に増加する懸念がある
技術 エネルギー関連事業
  • 社会の脱炭素化による再生可能エネルギーの需要が増加し、事業拡大につながる
  • 再生可能エネルギー、電力マネジメント、水素技術の開発による事業拡大につながる
  • エネルギー関連技術の開発競争が激化し、研究開発費が増加する懸念がある
半導体・情報通信、自動車、蓄電池事業など
  • 制御の高度化やAI、IoT、スマートシティなどデジタル技術の拡大により、需要増加につながる
  • 再エネ導入やEV化の増加に伴い、蓄電池需要が増加し、事業拡大につながる
  • 生産増加に対応するため、設備投資が増加する懸念がある
市場 顧客要求
  • ●部品事業もカーボンフリー化が拡大する可能性があり、対応の可否により事業機会、事業リスクにつながる
評判 製品の長寿命化
  • 太陽光発電設備の長期運用が日常化し、長寿命の信頼性が再認識され、需要拡大につながる
物理リスク 急性 異常気象の激甚化
  • 自然災害による、操業停止・生産減少・設備復旧などのコストが発生する懸念がある
  • 自然災害対策費用や保険料等のコストが増加する
  • 自然災害対策を進めることで、顧客からの信頼向上につながる
慢性 降水パターンの変化、平均気温の上昇
  • 水不足等により製造能力が減少する懸念がある

シナリオ分析

京セラの気候変動に関する将来のリスクと機会を把握し、事業戦略につなげるためシナリオ分析を行いました。シナリオ分析は、国際的な認知度、信頼性を考慮し、下記の文献を参考に4℃、2℃シナリオと共に独自シナリオとしてWB2℃、1.5℃シナリオを作成し、2030年の分析を実施しています。

主な参考文献:
RCP8.5、RCP4.5、RCP2.6、IEA ETP 2DS、IEA ETP B2DS、IEA450、IEA NPS、IEA ETP 2017、IEA EPT NZE2050、IEA Sustainable Development Scenario、IEA WEO2019シナリオ、WRI Aqueduct Water Risk Atlas、気候変動を踏まえた治水計画のあり方 提言、など

ケース 概要
4℃ 2100年に産業革命時期比で3.2~5.4℃上昇
2℃ 2100年に産業革命時期比で0.9~2.3℃上昇
WB2℃ 2100年に産業革命時期比で気温上昇が2℃を十分に下回る
1.5℃ 2100年に産業革命時期比で気温上昇が1.5℃未満

4℃ケース

各国政府の気候変動に対する政策は脱炭素化が進まず、電力会社は化石燃料による発電を継続し、CO2排出係数は低下しません。また、太陽光発電システム、蓄電池、燃料電池などエネルギー技術に関する業界でも技術開発が進まず、社会やお客様の脱炭素化が進みません。半導体・情報通信事業などでは、技術開発の進展、生産能力拡大を図り、AI、IoT、スマートシティなどデジタル技術の拡大が進みます。その結果、エネルギー関連事業は減速し、顕在化した物理リスクによりBCP対策コストや原材料の調達コストが増加します。
これらの結果、物理リスク対策費用が増加し、最終利益が減少します。ただし、本シナリオは、各国が脱炭素に進んでいることから、実現可能性は低いと考えます。

図:4℃ケース

2℃ケース

各国政府は再生可能エネルギーなどの支援制度を導入し、電力会社はCO2排出係数の低い電力を供給します。また、太陽光発電システム、蓄電池、燃料電池などエネルギー技術に関する業界では、技術開発が進みます。半導体・情報通信事業などでは、技術開発の進展、生産能力拡大を図り、AI、IoT、スマートシティなどデジタル技術の拡大が進みます。
物理リスクは4℃ケースより小さいですが、大きな影響があると考えられることから、WRI Aqueduct Water Risk Atlasや行政のハザードマップなどに基づきBCP対策を推進します。移行リスクは炭素税の支払い増加など、操業に関わるコストが増加します。
これらの結果、エネルギー関連事業の利益は増加しますが、増益分はリスク対応費用で相殺される可能性が高いと考えます。

図:2℃ケース

WB2℃ケース

各国政府は再生可能エネルギーなどの支援制度を導入し、電力会社はCO2排出係数の低い電力を供給します。太陽光発電システム、蓄電池、燃料電池などエネルギー技術に関する業界では、技術開発を進め、電力会社と協業を強化するとともに、社会へのVPP技術などの再エネ提供が進み、また、地域マイクログリッド作りをサポートします。半導体・情報通信事業などでは、技術開発の進展、生産能力拡大が進み、社会ではAI、IoT、スマートシティなどデジタル技術の拡大、DXの見える化による生産計画電力の需要予測、再エネのインバランスの安定化が進みます。
物理リスクは2℃ケースより被害は減少すると考えられ、WRI Aqueduct Water Risk Atlasなどに基づき、BCP対策を推進します。移行リスクは炭素税の支払いなどが増加すると考えられます。
これらの結果、社会の脱炭素化によりエネルギー関連事業の収益がリスク対応費用を上回り、最終利益は増加します。

図:WB2℃ケース

1.5℃ケース

各国政府は再生可能エネルギーなどの支援制度を導入し、電力会社はネットゼロに向けて活動を進め、脱炭素化が進みます。太陽光発電システム、蓄電池、燃料電池などエネルギー技術に関する業界では、電力会社と協業し、電力会社に対し再エネの提供などを進め、また、地域マイクログリッド作りをサポートします。半導体・情報通信事業などでは、技術開発の進展、生産能力拡大が進み、社会ではAI、IoT、スマートシティなどデジタル技術の拡大、DXの見える化による生産計画電力の需要予測、再エネのインバランスの安定化が強化され、脱炭素化が進みます。物理リスクは大きくないと考えられ、WRI Aqueduct Water Risk Atlasなどに基づき、BCP対策を推進します。これらの結果、社会の脱炭素化によりエネルギー関連事業の収益が増加し、物理リスクの影響は小さくなると考えられるため、最終利益は増加します。

図:1.5℃ケース

シナリオ毎の推定財務影響イメージ

4℃ケース
グラフ:4℃
2℃ケース
グラフ:2℃
WB2℃ケース
グラフ:WB2℃
1.5℃ケース
グラフ:1.5℃
  4℃ケース 2℃ケース WB2℃ケース 1.5℃ケース
利益増
リスク対策費用

財務影響度 大:100億円以上、中:10~100億円、小:10億円以内

課題と解決手法

京セラは社会の脱炭素化に貢献するため、VPP関連の技術開発、発電・蓄電効率向上や蓄電池大量生産技術、代替エネルギー、電力マネジメント、水素技術、蓄電池などの開発とともに、半導体・電子部品などの生産能力拡大が必要と考えており、社会課題の解決手法として再生可能エネルギーの「経済的課題」と「技術的課題」の解決を進めます。また、自社対策として政策、市場、評判、物理リスクに対する課題を明確化し、対応を進めてまいります。

社会課題の解決手法

経済的課題 安価な再生可能エネルギーの提供

解決手法 京セラEPA合同会社、京セラ関電エナジー合同会社の設立

京セラEPA合同会社は再生可能エネルギーを導入したい企業や電力サービスを提供する事業者向けに、京セラ関電エナジー合同会社は新築戸建て住宅を中心に、初期投資なしで太陽光発電システムを導入できるサービスを開始しています。

技術的課題 太陽光発電システムの導入場所の確保、天候に左右される再生可能エネルギー電力の安定化

解決手法 自己託送による外部からの再生可能エネルギーの送電

敷地内に太陽光発電システムの導入場所が確保できない場合、離れた場所に設置した太陽光発電システムから電力を「自己託送」することによって、再生可能エネルギーを活用することができます。

解決手法 クレイ型リチウムイオン蓄電池と太陽光発電システムとの併用

再生可能エネルギーの安定化のために、既存の太陽光発電システムと連携しやすい長寿命、高安全性、低コストの蓄電池を開発し、太陽光発電システムと併用することで電力の安定化をはかります。また、太陽光発電システムや燃料電池による発電の余剰分を蓄電池に充電することで自家消費を拡大します。

2030年エネルギーミックスの前提はネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)による省エネ住宅の標準化

図:2030年エネルギーミックスの前提はネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)による省エネ住宅の標準化

自社課題の解決手法

政策に対する課題

解決手法 省エネ、再エネ導入、DXによる電力需給の最適化

脱炭素に関わる炭素税の導入などに対応するため、自社への太陽光や燃料年値の導入を進め、一部拠点ではRE100の取り組みを進めています。今後は、自社でのエネルギーマネジメントを強化するため、DXにより電力需要の最適化を進めます。

市場や評判に対する課題

解決手法 長期環境目標の更新検討

京セラグループ長期環境目標は2℃水準でSBTの認定を得ていますが、社会情勢、お客様の要求や再生可能エネルギー事業拡大を進めていることから、長期環境目標更新検討タスクフォースを設立し、長期環境目標(2030年CO2排出量30%削減 2013年度比)より厳しい目標の設定を検討しています。

図:長期環境目標の更新検討

物理リスク対策

解決手法 リスク分析と対策の実施

急性の物理リスクについては、地理的に災害の起こる可能性を把握するとともに、下記の算定式で評価を行い、京セラ全体、また拠点ごとに止水板の設置など最適な対策を実施します。

リスク評点 = Σ(被害影響範囲、人的被害、火災爆発、環境影響、復旧時間、生産被害金額、設備被害金額)× リスク回避対策係数

慢性の物理リスクについては、Aqueduct Water Riskなど、国際機関の分析結果を活用し、サプライチェーン全体での対策を検討して参ります。

画像:「Aqueduct Water Risk Atlas」,世界資源研究所(WRI)

出所:「Aqueduct Water Risk Atlas」, 世界資源研究所(WRI)、https://www.wri.org(閲覧日:2021年7月6日)