Overview
高感度カメラや高精細液晶ディスプレイなど、
幅広い車載向け製品を開発している京セラ。
その技術力、製品開発力には自信を持っていたが、
自動車メーカーやTier1メーカー(自動車メーカーに
製品を納品するメーカー)に向けて
車載用部品を供給する京セラの課題は、
自社の製品群や技術力を業界に向けて
さらに広く周知させること。
そしてオープンイノベーションを加速させ、
新たな事業のタネを見出すことだった。
そこで掲げたテーマは京セラの最先端技術を
搭載したコンセプトカーの開発。
先進EVメーカーとの協業、困難を極めた開発の日々を
経て見えたのは、
京セラの車載事業の確かな強み、
そして目指すべきものづくりの形だった。
Project movie
Project member
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システム研究・開発所属
電子通信工学専攻中島
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システム研究・開発所属
機械工学専攻新谷
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システム研究・開発所属
生産科学専攻長屋
※2018年当時の所属組織名称です。
車載事業のプレゼンスを高め、
誇るべき技術と
大きなポテンシャルを
証明したコンセプトカー開発
#01
車載事業が抱える課題解決の糸口、
『コンセプトカー開発プロジェクト』
「京セラの最新技術が詰まったコンセプトカーを開発せよ」。
その号令が掛かったのは2017年9月のことだった。開発プロジェクトの推進ならびにPRを担った中島は、その背景をこう語る。
「私たちは従来から個々のお客様の要望、決められた仕様に基づいた製品開発を行ってきました。
しかし、車載事業を展開するメーカーとしての認知度は低く、PRも不足していました。
また、お客様からの要望を待つという受け身の製品開発が多い、という潜在的な課題があったんです」。
コンセプトカー開発は、社内外に対して京セラの車載事業のプレゼンス向上を図ると共に、これまでの受け身の製品開発ではなく、
市場のニーズをくみ取り、お客様に対して自ら製品開発を提案するという、攻めの姿勢・意識変革を技術者に促すために不可欠な取り組みだった。
協業相手として選んだのは、京セラと同じく京都発祥のベンチャー企業でスポーツEV『トミーカイラZZ』の製造販売を手掛けるGLM社。
同社は、EVの基幹ユニットや開発ノウハウを顧客企業に提供するプラットフォーム事業で世界進出を目指しており、
自社の最新技術を搭載したコンセプトカー開発を実現したい京セラと思惑が一致し、プロジェクトはスタートを切った。

#02
さらなるミッションは、
「日本最大の展示会で京セラの最先端技術をPRせよ」
手始めに開発した、トミーカイラZZのシャーシにスピーカーやエアコンなど数種類のデバイスを搭載し、
オリジナルの内装を施した試作車は、お客様や社内関係者などから好評を博した。
それを受けて2018年1月に決定したのが、当時の京セラが持ち得る最高の技術を結集させ、バージョンアップしたトミーカイラZZの開発。
そして、自動車の最新技術と製品を紹介する国内最大規模の展示会「人とくるまのテクノロジー展」への出展だった。
それまでは主にマルチメディアディスプレイの機構設計に従事していた新谷は
「展示会は5月末。まだ時間はあるなと思っていましたが、今思い返せば、浅はかな考えでしたね」と苦笑する。
搭載するのは先進運転支援システム(ADAS)への活用が期待される高感度カメラやサラウンドビューカメラ、よそ見運転を警告するドライバーモニタリングシステム(DMS)など12の最先端製品。
しかも、それらを連携させて動作させなければならない。開発を始めてほどなく、新谷はその難しさを思い知ることとなった。

パーツの説明
- (1)ルームeミラー(ディスプレイ) Gentex Full Display Mirror® with TFT Display
- (2)サイドeミラー(ディスプレイ)
- (3)10.25”CID(カメラ内蔵)
- (4)12.3”クラスター(カメラ内蔵)
- (5)ピエゾスピーカー
- (6)ペルチェ式エアコン
- (7)ペルチェ式シート温調 Climate Control Seat(CCS®) system by Genterm Inc
- (8)サイドeミラーカメラ
- (9)ルームeミラーカメラ
- (10)サラウンドビューカメラ(前/後/左/右)
- (11)シート素材用「京都オパール」
- (12)ステアリング(エンブレム)加飾用「京都オパール」
#03
続出するトラブル、安定動作しないディスプレイ、
迫るPV撮影
「製品単品の作動では問題ないのに、実際に車に搭載すると安定して動かない。
点灯してしばらくするとディスプレイの表示が消え、色褪せしてしまう事象には特に頭を悩ませました」。
社内の専門家に相談し解決を図るものの、次々と連鎖的に発生する他のさまざまなトラブル対応に追われた。
途中からプロジェクトに参加した長屋も焦りを感じていた。
「展示会で上映するPV(プロモーションビデオ)撮影が間近に迫っても、改善を試みては不具合が起きるという感じでしたね」。
迫り来る撮影日がプレッシャーとなって重くのしかかった。
「毎日遅くまで問題解決に奔走するメンバーを励まし続けるしかありませんでした。
でも、撮影2日前に『撮影に耐えられるディスプレイはできないかも』と新谷から告げられたときは、
本当に無理かもしれないと思いましたね」と中島は振り返る。
開発メンバーと社内の各領域のエキスパートがあらゆる知見と英知を結集しながらも、進んでは戻るを繰り返す日々。
そして、いよいよダメかと迎えたPV撮影5時間前。彼らの目の前に現れたのは表示も消えず、色褪せも発生しない、
まさに目指し続けたディスプレイだった。

#04
展示会の成功が指し示した、
車載事業が歩むべき「攻める」未来
無事にPV撮影を終え、迎えた展示会当日。
大きな反響と共に、来場者からは京セラの技術を評価する多くの声が上がった。
「京セラの車載事業の技術力、製品ラインアップに対するポジティブな驚きや反応を直接頂けたことはうれしかったですね」と長屋は回想する。
新谷は、京セラの持つ技術力、魅力を改めて認識したと言う。
「今回は主に動作システムの設計を担いましたが、本来は専門外の領域なんです。
『やりたい!』と手を挙げて、いくつも痛い目にあいましたが(笑)、周囲の仲間が助けてくれるんですよね。本当に何でそこまでっていうくらいに」。
そして中島は、既に次なる目標を見据えている。
「自動運転やEVシフトが加速していく中、今回の取り組みを通じて、
京セラには自動車の未来に幅広く対応できる要素技術やキーデバイスがあることを広くアピールできました」。
「ADASやコネクティッドカーなどにも、私たちの技術やデバイスは必ず活用されていきます。
一歩前進した製品開発や事業部間の有機的な繋がりを強みに、『未来における安全で快適な自動車』を追求しながら、
京セラらしいものづくりに果敢に挑戦していきたいと思っています」。
