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  5. かつてない半導体有機基板の開発

PROJECT STORY 02

半導体有機基板の
新境地を拓く
新製品開発への挑戦

OUTLINE

米国の新興ICチップメーカーの
期待に応える新製品をうみだす

社会生活の隅々にITが浸透してきたことに伴い、多様な端末機器に使用する半導体の需要が増大している。その半導体(ICチップ)を保護し、プリント配線板への実装と外部接続を可能にする中間部品が「半導体有機基板」である。京セラ京都綾部工場では2003年からこの開発・製造を行っており、国内外のさまざまな半導体メーカーに供給している。
IoTやAIなどの登場によって急速にICチップの高性能化が進展していた2020年、米国のある新興メーカーから、かつてない半導体有機基板の開発依頼が京セラに寄せられた。綾部工場にとって次代へ向かうスプリングボードにもなるスケールの大きな製品開発に、5人の精鋭たちが密にタッグを組んで果敢に挑んだ。

MOVIE

MEMBER PROFILE

プロジェクト全体統括

川名

#部門責任者 #開発決定 #プロジェクトリーダー

プロジェクト管理者

村上

#製造技術 #プロジェクト管理 #若手育成

プロジェクト実務リーダー

清水

#製品開発 #材料開発 #チームリーダー

プロジェクト実務メンバー

山本

#装置開発 #新人技術者 #プロジェクト初参加

営業

平山

#"製販一体"での対応 #お客様の満足度向上 #ビジネス拡大への挑戦

※この記事は2023年当時の内容です

事業の立て直しに不可欠かつ、
困難に満ちた新製品の開発に挑戦

 半導体有機基板に関する豊富な知見とキャリアを携えて京セラに中途入社し、綾部工場で開発を牽引していた川名。入社から5年目を迎えた2020年、充足した日々を送る中にもある懸念が頭から離れなかった。自身が所属する有機パッケージ事業部の採算性が積年にわたって好転せず、低迷状態が続いていたことだ。状況打開に向けて色々な角度から各種製品の歩留まり改善等に取り組んでいたが、既存製品に関する改善改良だけでは決定的な業績向上策はなかなか見つけられずにいた。ちょうどそんな頃、営業担当を通じて一つの大型案件が舞い込んだ。これまで取引がなかった米国の新興ICチップメーカーからの、最新鋭の半導体有機基板開発と供給の打診だった。

 「半導体業界を牽引するCPUの世界で新進気鋭の新興メーカーが、最高品質を有する旗艦製品の開発パートナーを求めて京セラに声をかけてくれたのです。このビッグチャンスを逃してはならないと、すぐにお客様と打ち合わせを行いつつ川名さんに開発をお願いしました」と平山。

 だが、川名は平山からの開発依頼に即答できなかった。求められたのはこれまで手掛けたことのない高性能かつ大きなサイズの基板で、開発スケジュールを遵守した新製品開発の成功はもとより、供給に当たってそれを製造するための設備投資や人員配備など、受諾後のさまざまな課題が一挙に目に浮かんだからだ。とはいえ、京セラの半導体有機基板事業を成長・発展させていくためには、挑戦するべきだということも重々わかっている。川名は熟考の末にチャレンジの意を決し、製品開発の右腕として信頼を寄せる製造技術に長けた村上とともに、お客様との開発条件の確認や生産設備の整備をスタート。翌春、若手技術者の清水と山本をプロジェクトメンバーに迎え、新製品の開発に号令をかけた。

相次ぐ開発トラブルの解決に
若手メンバー2人が奮闘

 新製品開発で最大の壁になったのが、ー配線加工だ。よくある3㎝四方程度のものに比べ、今回開発を目指す基板サイズはハイパフォーマンスを発揮する大きなICチップに対応できる8㎝四方のもの。さらに、これに機能を持たせるために基板は8層の積層構造に設定され、わずかなエリアに高密度な配線を施す必要があった。しかも基板を構成する各層の樹脂1枚は数ミクロン単位の極薄であり、サイズが大きくなれば当然、強度が落ちて割れやすくなる。試作品開発を始めるやいなや、想定外のクラックが続出した。そのため、樹脂材料の取り扱いにおいて新たな工程設計の開発が必須となり、清水はそこに力を注いだのだ。

 「自分がこれまで携わったものは樹脂メーカーから提供される材料をそのまま加工すれば使用できたのですが、今回の基板開発では初めて樹脂材料の素材そのものを見直す部分に踏み込みました。樹脂メーカーと何度も意見やアイデアを出し合い、最適な品質に仕上げるまでにかなり労力を要しましたね。樹脂材料の品質は半導体有機基板を量産する際の歩留まりに大きく影響するので、細心の注意をもって取り組みました」 と清水は話す。

 清水を中心に製品試作が進められた一方、量産に向けた新しい製造装置の開発導入に当たったのが当時入社1年目だった山本である。山本は生産現場に日参し、段階ごとの試作品の製造テストとデータ収集、装置の改善等に奔走。新人ゆえに開発経験・知識ともに浅い中で、川名や村上、清水からアドバイスを受けながら試行錯誤を繰り返した。

 「新製品を量産するには何台もの新しい製造装置が必要で、稼働のテストをするたびにそのいずれかに機械的なトラブルが発生していました。自分では解決できない問題にたくさん遭遇し、何度もくじけそうになりました。でも、入社間もない私にこのように大きな仕事を任せてもらったことに気持ちを奮い立たせ、装置メーカーや他部署の協力を得ながら目の前の一つひとつのトラブル解決に集中。結果、装置開発を成功できたわけですが、正直に言って何もかも川名さんをはじめ先輩方の手厚いサポートのおかげだと思っています」 と山本が自らの仕事を振り返る。

プロジェクト成功体験が
部門全体に好影響をもたらした

 試作開始から半年後の2021年夏、京セラ最新の半導体有機基板「ビルドアップ構造FC-BGA」が完成し、お客様のもとへ最初の製品が出荷された。同製品はお客様の品質基準を満たすとともに、川名が採算確保を見据えて定めた製品歩留まり率も無事にクリア。その後も製造品質を高める努力が継続され、歩留まりは日に日に向上しているという。それに並行して出荷数は着実に伸び、2022年秋現在、「ビルドアップ構造FC-BGA」はお客様を通して世界へと広がっている真っ最中。さらに、この開発で得た歩留まり改善ノウハウを他の製品製造に水平展開できたことで、過去から低迷の続いた事業部全体の採算性も一気に改善された。

 綾部工場の新たな飛躍への一大ステップとなった本プロジェクトへのチャレンジは、採算面だけでなくもう一つの大切な意義を持つ。それを、川名が次のように語った。

 「私は自分の過去の経験からも、絶対にできると考えていました。しかし、若い清水さんや山本さんは、困難な開発を乗り越えた先にある成功体験がこれまでになかったため、今回のプロジェクト成功は二人にとって大いなる財産になり、今後の成長への糧になるはずだと思います。それを経験してくれたことが一番よかったと思っています」

 川名の言葉に呼応するように、村上が続ける。

 「時間的制約がある中で想定外の問題が次々と発生しても、若い二人が粘り強く解決と改善に注力してくれました。問題には必ず回答があるので、結局は地道な努力を絶やさないことが大事なのです。それをまざまざと見ることができたプロジェクトでした」

 清水と山本も、本プロジェクトを通して感じたことを話してくれた。
 「個人的には、後輩社員のまとめ役を務めたことで自分が一歩成長できた感覚があります。ただ、今回のプロジェクト成功は自分たちだけではなく、綾部工場全体にとって今までにないよい効果を生んだと思っています。技術と製造の協力体制が密になり、次の開発に向かって前向きに団結できている印象がありますから。」(清水)

 「このプロジェクトで上長や先輩社員の背中を見ながら、仕事で自分がどう動いていくべきか、どのように周りを巻き込んでいけばよいかを一足飛びに学べました。開発が成功して少しは自分に自信がついたので、これからは装置改善等で気づいたことを積極的に発信していきたいと考えています」(山本)

 笑顔で4人の言葉に耳を傾けながら、営業の平山がこう締めくくる。
 「かつてない半導体有機基板製品の開発に成功し、無事に供給したことに対して、お客様から感謝の言葉をいただくことができました。『できないかも』を『できる』に変えるエンジニアの皆さんの頑張りで、京セラの技術力をあらためて証明できたこと、そしてお客様に喜んでいただけたことを何より嬉しく思っています。この成功事例を武器に、次の営業案件へ向かっていくのが楽しみです」

あらゆる分野でAIやビッグデータの活用が進む中、世界各国で高度なデータ処理能力を持つ巨大なサーバーやスーパーコンピュータの導入がますます増えていくと考えられる。それらの機器に搭載不可欠なのが、京セラの持てる技術の粋を集めて開発し続ける半導体有機基板。このデバイスは今後もエネルギーやインフラ管理など、幅広い領域での社会課題の解決に大いに力を発揮することは間違いない。
時代と世の中がどれほど変化しようとも、技術に限界はない。その考えをもとに人類、社会の進歩発展に貢献してゆく京セラの挑戦は決して止まらない。