Overview
自動車から建設機械、さらには航空・宇宙産業まで、
モノづくりに欠かすことができない金属。
金属を削って、加工する上で欠かせないのが
「切削工具」である。
京セラは1971年に切削工具事業を開始以来、
半世紀にわたり革新的な切削工具の開発、
製造、販売を続けてきた。
近年、被削材である金属の性能が高まり、
「より硬い金属を、より高速で高品質に加工したい」
という市場ニーズが高まる中、
ダイヤモンドに次ぐ硬度を誇る素材
「cBN(立方晶窒化ほう素)」を用いた
次世代切削工具開発にチャレンジする若手社員を追った。
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Project member
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川内開発部
硬質材料開発課
マテリアル工学専攻萩原
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野洲開発部
精密工具開発課
機械工学専攻山口
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応用技術開発部
解析技術課
制御情報工学専攻堀江
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応用技術開発部
関西テクニカルセンター課
機械工学専攻田中
※2018年当時の所属組織名称です。
「京セラ製が業界のスタンダードになる」
切りくずコントロールを可能にするブレーカ付きCBN工具
#01 地球深部と同じ極限環境でCBN工具の量産を実現する
ほう素と窒素からなるcBNはダイヤモンドに次ぐ硬さを持ち、熱的耐性や高温強度、熱伝導性も高いことが特長。ダイヤモンドと違って高温でも鉄系材料と反応しにくいため、焼入れ鋼などの高硬度材料の切削加工に適した素材として期待が集まっている。
鹿児島川内工場内にある川内開発部では10年以上前からCBN工具の材料開発を続けていたが、焼結に必要な高圧プレス機の駆動力が低く、生産量も限られていたため、CBN工具では競合他社の後塵を拝する状況が続いていた。しかし、エネルギーや医療といった今後成長が見込まれる産業分野で使われる素材の高硬度化が進み、CBN工具に対する市場ニーズは年々高まっていく。CBN工具を京セラ機械工具事業の主力に育てるためには、高性能な大型超高圧プレス機の導入と、それを使った材料開発が不可欠だった。
そこで川内開発部では5万気圧以上、1500℃以上という地球深部と同じ極限環境を作りだせる大型超高圧プレス機を導入した。
現在、この装置を使った材料開発と技術研究を担う硬質材料開発課の飯盛は、「実験で試行錯誤を繰り返しながら市場に求められる性能を引き出すことは、もちろん多くの困難を伴いますが、大きなやりがいでもあります。大型超高圧プレス機の導入によって実験できる環境の幅が広がりました。いずれは今までにないもの、世界初のものを作ってみたい」と目を輝かせる。


#02 「必ずできる」と信じて、常識を打ち破る
金属を切削する過程で発生する切りくずは、上手に排出できなければ機械のトラブルや不良品につながるやっかいな存在。そうした切りくずをコントロールするのが切削工具の刃先に施された「ブレーカ」だ。わずか2mmほどのブレーカに数十ミクロン単位で刻まれた溝やドットの形状が切りくずを規則的にカールさせ、細かく分断することで、スムーズに切りくずを排出できる。しかし、非常に硬い素材のCBN工具はブレーカ成形が難しいため、従来は複雑な形状のブレーカを付けられず、切りくずをコントロールしにくいことが課題だった。
「CBN工具に三次元的なブレーカを付けて、切りくずをコントロールできれば、今までの常識を打ち破る切削工具になるはず」と話すのは、ブレーカのデザイン・解析を担当している解析技術課の堀江だ。CADでデザインしたブレーカをシミュレーション(切削解析)することで、実際に現物を加工しなくても切りくずの形状を確認することができ、開発の効率化、コスト低減にもつながる。「理想の切りくずはパラパラの状態。これまで単純な形状が多かったCBN工具にはどういうデザインがマッチするのか判断が難しい部分もありますが、失敗を繰り返しながらも『必ずできる』と信じて自分を奮い立たせています」と話す。

#03 繰り返される試作の失敗、お客さまの「いいね!」が最高の喜び
京セラにとって、鹿児島川内工場の超高圧発生装置と並んでCBN工具量産化の大きな原動力となったのが、滋賀野洲工場に導入された超短波パルスレーザー加工機だ。この加工機の導入によって、cBNやダイヤモンドといった超高硬度材料への複雑なブレーカデザインが可能になった。応用技術開発部責任者の上田は「今ではブレーカが付いていて当たり前になっている超硬合金の切削工具も、できたばかりの頃は平たいのっぺらぼうの状態でした。CBN工具にブレーカを付けることに成功したことで、今後は業界全体でCBNやダイヤモンドの工具でもブレーカ付きが普通になる。『京セラ製が業界のスタンダードになる』と言っても過言ではない」と話す。
精密工具開発課の山口はレーザー加工機を使った試作品製作に従事する一人。お客さまのもとへ足を運び「こういう製品が欲しい」という要望を直接聞き、ニーズに合ったブレーカ形状をCADでデザイン。実際にレーザー加工機で試作品を作り、自ら評価しながら形状を決めていく。「パッと見は設計通りに加工できていそうでも、詳細に形状測定をしてみるとCADモデルと全然違う形になっているなど、試作は日々失敗ばかり。それでも私が携わった製品をお客さまから『これいいね!』と言っていただけたときは涙が出るほどうれしかった。開発者でありながらお客さまの声を直接聞けることがこの仕事の面白さです」と話す。

#04 「切削加工のプロフェッショナル」という誇りを胸に
「私たちの部署を表現するなら『切削加工のプロフェッショナル』というひと言に集約できる」と胸を張るのが、関西テクニカルセンターの田中だ。
関西テクニカルセンターが導入している5軸加工機※は1回の段取りで航空機用のインペラー※などの複雑な形状を加工することができる。最近では自動化も進み、5軸加工機を導入するお客さまは少なくない。関西テクニカルセンターはそういったお客さまをターゲットにした試作加工提案やトラブル改善への対応を行うことで、京セラの製品の良さだけでなく、切削加工に関するノウハウやケーススタディ、技術力の高さもアピールしているセクションだ。
お客さまと接する機会が多い田中は「お客さまがどのような製品を求めているのかをいち早く察知するのが私たちの仕事。察知した情報を開発現場にフィードバックして、開発者にしかわからない専門的な知識や視点を引き出すためのディスカッションは欠かせない」と話す。切削工具は、金属を削ることによって刃先が摩耗するため、一定のサイクルで交換しなければいけない。したがって、交換サイクルは長く、そして、より多くの部品を高精度に加工できる切削工具が欲しい――そうしたお客さまのニーズはCBN工具にも向けられる。「CBN工具に複雑なブレーカを付けるというこれまで難しいと思われていた技術を成し遂げた今、次のステップは、CBN工具の良さを最大限に引き出し、お客さまにより効率的に金属を加工してもらえるようにすることだ。そのために工作機械の条件設定方法などをお客さまにしっかり提案できるよう知識やデータ蓄積が私たちに求められています。切削加工のプロとして、『京セラに聞けば何でも分かる』と思っていただけるような人材育成、組織を目指していきたい」。
- ※5軸加工機…直線軸XYZの3軸に、2軸の回転傾斜軸を加えた工作機械
- ※インペラー…液体・気体用の遠心力ポンプや発電機等に使用される羽根車のこと
